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南向きの窓辺から朝の光が差し込んでいる。薄いレースのカーテンが、少しだけ開いた窓の端で柔らかく揺れている。彼女はやすらかな寝息を立てたまま、まだベッドで眠っている。昨夜交わした愛の形が、シーツに砂丘のような稜線を描いている。朝日を浴びたまばゆいシーツ、その白に思わず目を細める。不意にブランシュの香りが鼻をかすめる。
ブランシュ・オードパルファムは、新時代のコスモポリタンな香りを提案し続けるバレードの中でも、特に人気の高い香りの1つだ。2009年発売。50mlボトルで15000円程度。昨今のニッチ・フレグランスは値段が高めの設定が多く、バレードもややその傾向。このフレグランスは、創業者ベン・ゴーラムが、「白」という純真無垢な色に自身の記憶の中にある女性の姿を重ね合わせてイメージしたと言われている。それが奥様なのか、かつての恋人なのかは定かではない。美しい記憶はその人だけが開けられる大切な宝箱だ。
そんなブランシュの香りは、まるでサイダーをグラスに開けたときにシュワシュワと漂うシトラス系の飛沫のような香りがする。キンキンと音がしそうなほどかん高いラムネのような香り。
トップからそんなはじけるソーダ水の香りがするので、気分はスッキリする。ただ、よくあるレモンやベルガモットのようにフルーティーではない。本当に透明なサイダー系のインダストリアル・クリーンとも言うべき香りだ。思いっきり酸味の強いアルデハイドの香り。
それが、5分たっても10分たっても変わらぬまま、ただキラキラと高いところで酸味を放ち続ける。トップがないのか、ミドルがないのか分からないが、そもそもベン・ゴーラムは調香の知識もないまま自分の感性で香りを創っているので、そのへんは通常の香水と全然違うのかも知れない。それでも、しばらくは変化がなくてただソーダ系の香りがするアルデハイドの印象ばかりが強いので、これだと香水というよりリネンウォーターじゃないかと思ってしまう。そしてその印象はまんざら間違いでもなさそうだ。
調べてみると、シーツに寝そべった美しい女性の記憶、そのシーツの白と女性のイノセントな寝姿が、彼の中でブランシュという作品に昇華したようだ。欧米ではシーツやファブリックにリネンウォーターで香り付けすることがごく当たり前だから、そんなシーンに漂っていたリネンウォーターのスッキリした香りにインスパイアされたのかもしれない。
そんなスッキリした香りも、2時間ほどすると、少しツンとしたソーピーなムスクに変わってくる。ちょっと焦げたようなテイストもある淡い雰囲気のムスクだ。そして、全体で3時間たつ頃には穏やかに消失する。
この香りの良い点を挙げれば、CLEANの香水によくあるような、清潔感のある石鹸っぽい香りが気分を上げてくれるところだろう。構成を見ると、トップにピンクペッパーやホワイトローズ、ミドルにネロリやピオニー、ヴァイオレットなどとあるが、自分にはこれでもかとキンキン騒ぎ立てるアルデハイドの香りしか感じない。合成香料メインのミックスによくある、ずっと同じ香りが長続きするというタイプだ。空中にスプレーしてそのミストの中をくぐれば、服にも爽やかな香気が付いて、高級なリネンウォーターとしても使えるだろう。
逆にこのフレグランスの残念な点を挙げれば、香りじたいが単調なこととその割に値段が高いことだ。シーツなどから漂うシトラスやバラ、ラベンダーなどのリネンウォーターの香りは、エッセンシャルオイルを抽出した後のいわば残り香が閉じこめられた水で、安価な物が多い。だがブランシュは高い。単調で変化に乏しく、しかも安価な人工香料の香りなのに15000円と考えると、何だか「白」というより「白けて」しまう。他の香水がもつ複雑な変化のおもしろさ、使用している香料どうしの配合の妙、などと比較してしまうと、このシンプルな香りなら2000円程度が妥当な価格設定ではと思ってしまう。
バレードの中では、ジプシーウォーターがとても好きでリスペクトしている。だからついつい他の作品にも期待してしまって、それゆえにちょっとがっかりしてしまう点は否めない。それでも、ブランシュの香りじたいはとても優しく穏やかで好ましい。夏に向かう青空のように、まぶしくてきらびやかな光に満ちた、爽やかなランドリー系の香りだと思う。それこそ真っ白なシーツから香るような。
清らかな香りを不意に感じて、彼女が目を覚ます前にちょっといたずらしてみたくなった。仰向けに寝そべった彼女に気付かれないように、彼女の両肩あたりのシーツをつまんでは線を描いていく。できあがったのは小さな2枚の羽根。
朝の光に照らされたのは地上に墜ちた天使。その無垢なまどろみ、そしてブランシュの香り。
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