私たちがメイクで「左右対称の顔」を目指す本当の理由 #平成の美

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私たちがメイクで「左右対称の顔」を目指す本当の理由 #平成の美
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はるか昔から存在する「美」の概念。平成の30年間ではどんな美しさが生まれ、何が美しいとされていたのでしょうか――。

当企画「平成の美」では、さまざまな角度から「美」を追及するため、インタビューを実施。「平成」という時代を振り返りながら、もはやひとことでは言い切ることのできない「美しさ」について聞いてみました。

人は出会った瞬間、無意識に相手を評価している

そもそも、なぜ人は人を「美しい」と感じるのか――。

そんな疑問を解決すべく話を聞いたのは、芸術や美、人の魅力を研究している感性心理学の研究者、慶應義塾大学の川畑秀明教授。

心や脳を通じて、人はどのように美を評価するのか、そして平成の美の基準はどのように変わっていったのかを、心理学の観点から教えてもらいました。

――そもそも、私たちが人を美しい、魅力的だと感じるのには、どのような心理が働いているのでしょうか。

「私たちはその気はなくても、相手が目に映った瞬間にその人を評価しています。ただ、その評価は『優しそう』『顔がタイプ』などというものではありません。

もっと遺伝的な情報、たとえば栄養状態や免疫の状態、病気のリスク、どんな気候環境に適応しているかといったことを、その人の顔やからだから読みとり、その結果、自分にとって魅力的かそうでないかを感じとっていると言えます」

――無意識に、しかも瞬間的に相手の栄養状態まで探っているなんて、驚きますね。

「相手が健康的かそうでないかを評価するには、顔の“黄色味”や”赤色味”が大きく関係しています。黄色は人が相手の栄養状態を、赤みは循環器の働きの良さを判断する基準の色で、顔に黄色味や赤味のない人を見ると、私たちは本能的にその人を“不健康”と思ってしまうのです」

私たちがメイクで「左右対称の顔」を目指す本当の理由

――では、心理学的、生物学的に、美の定義はあるのでしょうか。

「まず『対称性』が挙げられますね。心理学では、人は左右が対称の顔を美しいと認知しやすいことがわかっています」

――女性はメイクや骨格矯正で左右対称にしようと必死ですが…。

「対称性の高いものが美しいもの、いいものということを、本能的に感じているんだと思います。

そもそも、生物学的には左右対称でないということは“異常”なんですよ。ある研究では、がんを誘発する原因となる酸化ストレスは対称性の低い人のほうが強く、免疫の度合いは対称性が高い人のほうが高いという結果も出ています。

また、心のストレスが顔の対称性を損なうとする研究結果もあります」

――反対に、メイクなどで意図的に顔を左右対称に整えれば、心のストレスや酸化ストレスが減るということはありますか?

「それは残念ながらないと思います。むしろ、メイクが面倒くさい、ストレスだと思っているとさらにゆがみにつながってしまう可能性はあるかもしれないですね」

――となると、楽しい気持ちでメイクすることは大切ですね。

「そうですね。それに、左右のバランスをとってメイクするということは、他者に向けて自分の美しさや健康状態を示すことにもつながりますから大切にしたいですね。

人のからだは生活習慣や姿勢のクセでゆがんでしまいがちですし、ケガをしたり歯が痛くなったりして手足やあごの左右どちらかをかばうことで対称性のバランスを乱すこともありますから、日々の生活でも左右対称を心がけるといいですね」

――「対称性」のほかに美の基準はありますか?

「『平均性』もとても重要な要素です。私たちは自分が接してきた人の統計を脳内に持っているので、『日本人はこういう顔だ』『フランス人はこういう顔だ』という平均を無意識に計算しています。

人は接触回数が多い人やものに対して好意を増すということも知られていますから、その真んなかに位置づけられる人を美しいと評価し、外れていけばいくほど『らしくない』と敬遠するわけです。目にするものは頭のなかにどんどん加算されていくので、世の中で『美しい』とされるものにたくさん接すると、平均値は変わってくるでしょうね」

――ファッションやメイクのトレンドを意識するのも、平均でいたいという心のあらわれでしょうか。

「一理はあるかもしれませんね。人は共通性が高いものに対して魅力を感じやすいんです。たとえば自分が所属する会社や大学、サークルといった集団をひとつの文化、あるいは社会と捉える心理があります。

そういった集団では、内輪に対して共感的になるし評価も高くなる。逆に自分が所属する集団以外には排他的な感情や嫌悪感が生じやすい。このことから考えても、共通したものに対して魅力を感じるのは当然です。

だから、例えば芸能人なんかも、自分に似ている、共通する要素がある人を魅力的と感じやすいのです」

美しさは、脳にとって「ごほうび」だった

――何かを美しいと感じるとき、私たちの脳はどのような状態なのでしょうか。

「おもしろいことに、人間が何かを美しいと認知すると、『眼窩(がんか)前頭皮質』というおでこの裏奥側にある場所が活動を強めることがわかっています。眼窩前頭皮質は報酬価、“ごほうび”に反応する部分。つまり美しさは脳と心にとってごほうびになっていると捉えることができます」

――美しいものを見ると「目の保養になった」なんて言いかたをしますが、それは正しいんですね。

「まさにその通りですね。美しいと評価される対象となるのは、芸術作品や人の顔だけではありません。設計士は図面に、外科医は手術の手技に美しさを感じるかもしれません。数学者にとって、もっとも美しい数式とされる“オイラーの公式”も有名です。

人それぞれに何を美しいと思うかは違っても、脳が美しいと感じるときの反応のパターンには共通性があるというわけです」

――逆に、好ましくないものを見ると、脳はどんな反応をするんですか?

「醜い、いやだという評価をするときには、脳の『運動野』という部分が反応します。ここは手や足の動作をつかさどる場所で、醜いものから遠ざかりたい、振り払いたいという回避的な反応が起こります」

――人間って本当に正直ですね(笑)

平成は、「美しさ」が多様化して分散した時代

――最近はファニーな顔やすきっ歯のモデルが人気を得るなど、美しさの概念も変わってきたように思います。

「昭和の時代は、美しさはこうあるべきというセオリーや流行があって、みんながそこを目指していた時代。

平成の30年間は、美の捉えかたが多様化して分散した時代。価値観にしてもテクノロジーにしても、画期的なものは平成の世に出尽くしてしまったという印象がありますね。令和は多様化された美の概念を認知していく時代になるのではないでしょうか。

最近、若い女性たちの間であえて血色をなくすメイクが流行していると聞きます。生物学的な美の基準からすると真逆だと言えますが、それも美の多様性のひとつですね」

――今後、メイクやコスメはどんな役割を担うと考えますか。

「女性に限らず、人には『こうありたい、こう見せたい』という自分なりの理想があります。ですから美容やダイエットで自分を磨くことは、外見と心の乖離を縮めてバランスを取ろうとする試みであると言えます。

外見と心のバランスをうまくとるために、メイクやコスメが手段となり、理想に近づくための選択肢と可能性を広げてくれることを期待しています」

眉を左右対称に描いたり、チークを入れて血色をよくしたり。きれいになりたくて施していたメイクは、心理学的・生物学的にも理にかなっていたようです。

「美しいものに触れることは、脳にとってのごほうび」「メイクをするときは楽しい気分で」という川畑教授の言葉は、エールのように胸に響きます。

有名ファッションブランドがやせすぎのモデルを起用しないことを決めるなど、この数年はとくに世界的にも美の概念について立ちどまって考える時期となりました。

とくに日本は平成から令和という節目を迎え、美とは何かを見直すにはちょうどいいタイミング。あらためて自分にとっての美しさや次の時代に目指す美について考えてみたくなりました。

川畑 秀明さん
慶應義塾大学文学部教授
1974年、鹿児島県生まれ。専門は感性心理学、認知神経科学。美しさや魅力を感じる人の心や脳の仕組みの解明を通して、人間らしさの根源の理解に努める。『脳は美をどう感じるか―アートの脳科学』(ちくま新書)、『美感』(共著,勁草書房)などの著書がある。

文/大森りえ

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