セルジュ・ルタンス / シェルギイ(Chergui) 口コミ

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doggyhonzawaさん
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6購入品

2016/2/20 23:46:52

東から来たその男は、どこか風を連れているように感じられた。女の心に鳴り続けるアラート。「キケンダ。コノ男ニハ、チカヅクナ。」けれど、その音が高くなるほど、男に惹かれていく自分にあらがえないという思いも増した。激しい警告音は、女の心臓の鼓動そのものだった。

男は粗野で、猥雑で、傍若無人だった。長い髪を無造作にかきあげ、褐色の肌に無精ひげをたくわえ、いつも怒っているような顔をしているくせに、時折見せる笑顔は、子どものように無邪気だった。タバコの匂いがしみついた長いコートを着て、長身の体を前のめりにして、ゆらりと歩いた。女がそのコートの腕に抱かれるのに、時間はかからなかった。頑強な毛深い体からは、酒と汗と油の匂いがした。

男は貪るように女を求めた。暗闇の中、唇を合わせた刹那、女はそっと目を開けて、男の瞳の奥を盗み見た。そこには、黒い太陽と、遠い異国の砂漠を思わせるサンドストームがあった。きつくまぶたを閉じ、男の首筋にしがみついた。煙たい動物の脂の匂いがした。男の目は何も見ていない、女は知った。野獣の唸りのような、激しい息遣いをどこか遠くに聴きながら、ほおに一筋の涙が流れるのを感じた。それは、砂漠の夜を駆ける流れ星のように、静かで孤独な一瞬だった。

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シェルギーは、2005年、クリストファー・シェルドレイクの調香によって生まれたオリエンタル・スパイシーノートの香りだ。セルジュ・ルタンスの公式サイトでは、「モロッコの砂漠の熱風」と紹介されている。モロッコの砂漠と言えば、南部に広がる広大なサハラ砂漠が思い浮かぶ。その全てを焼き尽くし、砂塵に帰すかのような強烈なかの地の気温は、ハイシーズンには日中、摂氏40〜50度になるという。そんなサハラからモロッコに向かって吹き付ける乾いた熱風を「シェルギ」と呼んでいるそうだ。

シェルギーのトップは、濃厚なハーバル&バルサミックだ。コーラをホットにして酸味と甘みを際立たせつつ、薬草や樹脂を混ぜたような複雑なオープニング。一瞬、ゲランのシャリマーを思わせる雰囲気がある。ベースの樹脂っぽさに、似た系統を感じる。だが、シャリマーよりもずっと暗く、そして、人を寄せ付けないようなじっとりとした野性的な清涼感が強いように思う。

トップからミドルへの境界はあいまいだ。すぐに、タバコリーフの茶色いスモーキーな味わいと、乾燥した香ばしい干し草様ハーブの香りに移ろってゆく。このあたりは洋酒っぽくもあり、レザーっぽくも感じられるところかも知れない。間違っても火をつけたタバコの香りではない。紅茶なみに深くローストされたタバコリーフの香りは、ダークに心をくすぐる。

このミドルのスパイシーな甘苦さは、杏仁豆腐の香りを煮詰めたようにも感じられ、好きな人にはたまらない香りだ。苦く辛く、熟成されたタバコの葉の香りと、ローズと干し草のミックスが心地よい。それらがアイリスの暗さに抑制され、むわりと拡散力することなく、かなりストイックに香り立つ印象。強く、濃く、スイートでスパイシー、けれど低いところですっきりと暗い香りが流れ続けているような雰囲気。

液体色のこげ茶色とも紫とも言い切れない複雑な色合いもいい。ダークブラウンをタバコと樹脂と干し草と見るなら、そこにアイリスのパープルを混ぜたようにも思える。ルタンスの香りには濃い色が付けられている物が多いが、そこにも香りのアイデンティティーが感じられる。衣服等への着色には注意が必要だとしても。

そしてラスト。シェルギーの香りの変化はトップからずっと好ましいが、このラストはことのほか好きだ。暗く湿ったミドルが、干し草とサンダルウッドの乾いた香ばしさにスライドしていきつつ、次第に甘い蜜の香りが絡んできて、ゆったりとした極上のリラグゼーションを感じさせてくれる。それは、熱く痛みさえ伴う風をやり過ごし、静かに訪れた宵闇の中、ステップの大地の向こうに、星がまたたき始めたかのような静寂とあたたかさのよう。一日の喧騒の終焉を告げるトワイライト。空を斜めによぎって、すっと消えた流星に感じた切なさ。

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ある日、そうなることが当たり前だったかのように、男は忽然と姿を消した。女は、その深く暗く、よどんだ香りの行方を虚空に探した。風は凪いでいた。男はまた、砂埃の中を歩いているのだろう。コートのすそをはためかせ、長身の体をゆらりと前のめりにしながら。誰も知らぬ遠くの町で。

あの日、男の目には何も映っていなかった。そこに誰も住んではいなかった。ただ、吹きすさび、荒れ狂い、砂塵を巻き上げ、どこまでも荒涼としていた。

男は、瞳の中に一陣の風だけを連れていた。

  • 砂漠の風 by doggyhonzawaさん
  • シェルギー by doggyhonzawaさん
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