吉田修一『愛に乱暴』
2015/6/25 14:57
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これは私の、私たちの愛のはずだった―本当に騙したのは、妻か?夫か?やがて、読者も騙される狂乱の純愛。“家庭”にある闇奥。“独り”でいる孤絶。デビュー以来一貫して、「ひとが誰かと繋がること」を突き詰めてきた吉田修一が、かつてない強度で描く女の業火。
面白かったです。
そしてミスリードにまんまとはまり、騙されてしまいました。
いや、正確に言うと最初から違和感はあったんですよね。
だけどまさかそんな仕掛けがあったとは気付かず、半分ちょっと過ぎたあたりの日記でえ?え?あー、そういうことだったのかーと気付きました。
主人公は結婚8年目の主婦・桃子。
真守の実家の敷地に建てられた平屋の離れに住み、週に1度ほどカルチャースクールで石鹸教室の講師をしている桃子だったが、真守は不倫をしていた。
そして真守から不倫相手と3人で会って欲しいと言われてしまう。
通常の三人称の描写と、日記とか交互に描かれていきます。
最初は不倫されている桃子よりも、不倫している女の方がちょっと頭がおかしいと言うか、大丈夫かな、この子、と思っていたし、真守と桃子夫婦の関係も不倫相手の女が日記に書いているのとはちょっとずれていて、そこで違和感はあったんですよね。
違和感と言えば、不倫相手の女の日記と桃子の日記があることも正直違和感ありありでした。
なので気付こうと思えば気付けたミスリードだったんですよね。
あー、見事に騙されちゃいました(笑)。
最初の私の印象では、桃子はそんなに狂ってる感じはなく、本当に普通の主婦というイメージだったんです。それがほんの少し、少しずつ狂っていってしまった感じだったのですが、でも元を正せばやっぱり最初からちょっと正気ではないところがあったんですよね。
もともと多分心は弱くて、いつ壊れてしまってもおかしくない状況で、そしてネタが明かされてしまえば真守と結婚する時点でもう狂乱は始まっていたのだということがわかります。
同情せざるを得ない壮絶なまでの桃子の孤独感。
桃子は大好きな真守と結婚してからも、ずっと自分の居場所を探し続けていた。
結婚する前、言わなかったわけじゃない、騙すつもりはなかったけれども言えなかったこと。
それを心のどこかでずっと負い目に思いながらも、ただただ真守と幸せになりたかった。
優柔不断で大事なことからはいつも逃げる真守との結婚生活を守りたかった。
失いたくない、自分の唯一の居場所を必死で守ろうとしただけ、なんですよね。
その気持ちが穴を掘ることへの繋がりが見事でした。
それにしても真守はなんなんだ!
あまりにも最低過ぎて気分悪くなりました。
あまりにも腹立たしすぎて、悔しすぎて、そりゃ正気じゃいられないわ、と思ってしまいました。
人から求められること。
自分の居場所があること。
人から「ありがとう」と言われること。
そんな些細なことが、実は一番大事なことだったりするのかもしれません。
真守はしょうもなさ過ぎてもうどうにもならないし、きっと何度でも同じことを繰り返しそうだけど、桃子には今度こそ自分の居場所を見つけ、自分の足でしっかり立って生きていって欲しい、そんな風に思える前向きなラストに救われました。
★★★★
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