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映画の中の香水 その1

映画の中の香水 その1

「香水は何を付けているの?」
「ジッキーよ」
「あなたに似合っているわ」

映画(特に仏映画)を観ていると、目立って名指しで言及される香水が2つほどあることに気付きます。さあ、何でしょうか?…ヒントは、フランス・高級・エレガンス・格調・文化性・哲学・…といったところでしょうか。香水がお好きな方は、当たらずとも遠からずの見当が付くと思われますが、ゲランのジッキーとミツコです。

先の会話は、仏映画「恍惚(2003/仏)」で、エマニュエル・べアール演じる娼婦とファニー・アルダン演じる女医が交わした会話です。ファニー・アルダンにジッキーの香り…素晴らしいですね。作品自体もまた、ゲランの香水のように“意地の悪い”、トリッキーな、大人の為の、得るもの感じるものの非常に多い良い作品でした。

1900年前後のとある高級娼館の盛衰を描いた「メゾン ある娼館の記憶(2011/仏)」では、ある娼婦が自分のトレードマークとして纏っているこの香りについて客と語らうシーンがあります。別のシーンでは館の娼婦たちの香水を並べた棚が映るのですが、確かにジッキーが確認出来ます。他にも時代考証的に自然であるような香水、同じくゲランのオーインペリアルや、4711のコロンなどが置いてありました。娼婦の数だけある香水壜…そこに何ともドラマが感じられますね。

また、パトリス・ルコント監督作「タンゴ(1992/仏)」の中では、妻帯者で浮気者の男性が女性を口説く場面で、こういったやりとりがあります。

男性「香水を付けている女性に目がないんだ。特にジッキーをね」
女性「不美人でも?」
男性「それが不思議なことに、ジッキーを付けている女性に不美人はいないんだ」

何ともフランス映画らしい会話です。こちらもフランス的な、軽妙洒脱かつ哀愁の感じられる味わい深い佳作でした。

さて、ミツコについて。ミツコはとても映画と相性が良い香りのようです。思うに、不幸というより、”幸せを遠慮している”女性に似合う香りなのです。影ではなく翳り。映画にはそんな女性が溢れているし、そんな彼女たちにはミツコが似合う、そういうことでしょうか。

ミツコに関してはクチコミの方でも書いておりますが、もう一例。

「待つ女(2006/仏)」では、ちょっと笑ってしまうくらい、ミツコについて語られます。
主人公は、服役中の夫の出所を待ち続ける女性。週二回の夫との面会時には彼女はいつも、以前に彼が奮発して自分にプレゼントしてくれた“ゲランの香水”を、自分自身と、彼に手渡す着替えの洗濯物とに振り掛けていくのです。

作中“ゲランの香水”とばかり表されるのですが、ボトルを見るに、ミツコ(のトワレかオーデパルファン)であると分かります。夫は親しくなった看守に語ります。その香りは、彼女の皮下、内から滲み出て香り立つものなのだと。それは彼女の存在そのものの香り、魂の香りであると。それを聞いて、《いやそれは工場で調合した香料を皮膚表面に付けただけでしょう》という野暮な突込みが私の中で喚起されたのですが(笑)、それはともかく、決して教養あるとは言い難いような男性でも香水についてかくも語れるという、フランスの香り文化の深さを垣間見るような一シーンではありました。

思うに、ゲランの香水は、物質云々というより、例えばフランスの文化として哲学として、一種のエレガンスを以って会話の中に“観念”として登場するのに最適なものなのかな、と思います。つまりはもうフランス人にとって(ひいては世界的に)“別格”なのですね。


ついでに現物の登場で言えば、王道のシャネルの5番や大ヒット作のクリスチャンディオールのジャドール、先にも述べた長い歴史を持つ4711あたりが最も目に付きます。

シャネルの5番は、最近のものではマドンナの監督作「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋(2011/英)」で、高級アパートに夫と住む主人公の化粧台に置いてありました。一流どころしか受け付けないわよ、という感じのマドンナのような方が、自身の作品内で小道具にする…まあ、それがなくともそのステータスレベルはいうまでもなく、といったところですが。

ちなみに、マドンナご本人の愛用香水は、フラカ D&Gオリジナル ヒプノティックプワゾン ユースデュー アロマティクスエリクシール オーダドリアン ナルシスノワール ノクチューン…などなど、といった情報があります。やはり、強く重いオリエンタル系が多いですね。もちろんこちらは色んなところからの寄せ集めデータなので、100%確実なものではないことはご了承下さい。

4711は最近では、先の映画「メゾン ある娼館の記憶」、「遥かな街へ(2010/白・仏・独)」、「愛、アムール(2012/仏・独・墺)」などに登場したのが印象的でした。どれも大変見所のある作品です(特に「愛、アムール」は世界的に非常に高い評価を受けたことが記憶に新しいですね)。

神は細部に宿るといいますね、細かい所で物事の深みが決まります。作中に出て来たものを目にして、「この人はこういう香水を選ぶ人なんだ」「彼女の”自分の香り”なのかな」「誰かにプレゼントされたのかも」などなど、そこに無数のドラマが現れます。何にせよ、使われている小物はその映画の表現の一片、DNAの一部ですので、そこに描かれるものの魂の取っ掛かりがあるのだと私は思うのです。

映画の中の小物としての香水、探し始めたら世界が広がって面白いですよ。

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