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1984年の時計仕掛けのオレンジ

1984年の時計仕掛けのオレンジ

人は死ぬ前に閻魔様が自分の人生の中の恥ずかしい瞬間を
ハイライトで見せてくれるそうです。
で、それを見て人は改心して、天国へ行くんだって
テレビで誰かが言っていた。

で、そのハイライトの中で絶対に出てきそうなことを考えると、
多分、過去の男の何人かだろうな、と思う。

全然話変わりますけど、
テレビで大昔杉田かおるお姉さまが
「テレビで清純派ぶっている人ほど裏の顔は鬼よ」
って言い捨てていました。
「悪女ぶっている人ほど、純情なのよ」だって。

確かに中森明菜とか三原じゅん子とか、悪ぶっているけど、
男には苦労してるというか尽くしていそう。
(三原じゅん子、演説しているところを見ましたが小柄で
お人形さんのように整っているお顔でびっくりいたしました。)
で、対する、清純派ってやつは今この二人しか思い浮かばない。

宮崎あおいと蒼井優。

週刊誌の記事で皆知っている。

二人ともさ、男を転がすようには見えないけどね。

わたしどっちかと言ったらこっちのタイプです。
昔の男のハナシをすると皆ドンビキしていくのがわかるので
黙っているようにしてますが。

でまあ、自分の中の黒歴史というか、笑える話なんですけどね、
大昔、年上の男とおつきあいしていました。
若くしてその人ははげたらしく、私と出会ったときはスキンヘッドでした。
(丸坊主ではなく、ホントにスキンヘッド。)
これまた外人なんだけどさ、北欧の出身でかなりなまった英語を話す、
やり手のビジネスマンでした。
仕事のハナシもかなり面白かったし、
ガタイもよく、はげた頭も加わって、自信家で男性的な魅力にあふれている
ような感じでした。
髪の毛あったころはたぶん、ものすごいチャームポイントだったろう
青い瞳がいたずらっぽく見えました。

理系の男なんだけど、なぜか文学的。
いつも本のハナシをしてましたね。
ジョージ・オーウェルの1984とか、バージェスの「時計じかけのオレンジ」とか
割にハイブロウな趣味の方でした。

出会いは簡単でした。
アパートが隣同志。
ごみの収集のハナシとか、大家さんに掛け合いに行ったりするときに
二人で行動するようになっていつの間にかもうそういう感じになっていた。

別にそれはそれでよかった。
悪い男ではなかったし、一緒にいて楽しかった。
が、オフロとグルーミング(歯磨きと髭剃り)が
異様に長い男だった。

だから、一人で彼のシャワーの水音を聞きながら、
私はビールなどを飲んでましたっけね。

で、どうしてもトイレに行きたくなったわけ。
で、トイレはさ、外国だからバスとトイレは一緒なわけ。
何回かノックして無視。
しばらく待ったら扉が開いたので、
こっそり入って用を足そうと思ったが、
明らかに「入ってくるな、コラ」という雰囲気がありあり。

しょうがないから自分の家に戻ってトイレとかするんだけどさ。
なんであんなに長いのかこっちもわからないくらい長かった。

で、ある朝、早起きして彼はシャワーを浴び、
顔にアフターシェイブローションを塗っていた。
浴室のドアが半開きになっていて、
彼が何かを鏡の前でしているのが丸見えなの。

洗面所には香水、ボディシャンプー、化粧水、乳液、
など、とあるメンズのメーカーでそろえたお高そうな化粧品と
黒革のポーチが並んでおりました。

で、彼は一生懸命、見たこともない表情をして、
真剣にスキンケアをしていた。

で、余った化粧水を全部頭につけて念入りに撫でまわし、
余った乳液をまた同じようにつけ、
で、香水をつけて、また香水を手に取って
念入りに頭につけてはのばし、
とやっていた。

なんだか、ね、あんまりに真剣なんで、
びっくりしたのと一緒に滑稽に思えてきてね。
ナルシストだったのか、なんだったのか知らないけど、
自分の頭をものすごい丁寧に撫でているのがおかしくて、
笑いをこらえられなくなってしまった。

でも笑えないからね。
うつむいて「ぶふっ」って感じだったんだけど、
見てはいけない舞台裏を見てしまってね。
で、彼がかなり恰好をつけて尊大にふるまっているのを見るたび
バスルームの彼を思い出しておかしくなってしまってから
私の中でヤツは男ではなくなった。

彼が急に本国から大きな仕事の依頼があったらしく、
私の前からあっという間にいなくなった。
私も新しいアパートに引っ越すことになり、
二人はあっという間に終わったけど、
彼はたぶん、私があの朝の儀式の一部始終をじっと見つめていたとは
思っていないだろう。

あの儀式はなんだったんだろうかね、
そのあと何人かの男をとっかえひっかえしたけど、
あんなに風呂の長かった男はいなかった。
今はどこでどうしているのやら。

彼の香水はたぶんシャネルのエゴイストだったかな。
懐かしいね。



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