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【インタビュー】ブランド創業者 ミルコ・ブッフィー二氏へ聞く日本デビュー10周年の現在地と、新作「FUGA」について

【インタビュー】ブランド創業者 ミルコ・ブッフィー二氏へ聞く日本デビュー10周年の現在地と、新作「FUGA」について

日本デビュー10年目に突入した、フィレンツェ発のフレグランスブランド【MIRKO BUFFINI FIRENZE/ミルコ ブッフィーニ フィレンツェ】。来日したブランド創設者であるCEOミルコ・ブッフィーニ氏へ、ブランドの始まりについて、クリエーションについて、そして今春発売の新作「FUGA」について聞いた。
※「FUGA」はUの上に山線有り。システム上文字化けするため山線無しで表記。

YUKIRIN:アパレルビジネスからビューティサロンの経営というキャリアから、自身のフレグランスブランドを立ち上げることになった経緯は?

ミルコ・ブッフィーニ(以下、ミルコ):誕生日に知人から香水、しかもニッチなフレグランスを誕生日プレゼントされたことをきっかけに、ブランドストーリーが始まったんだ。それまでも香りやボディケアに興味はあったが、ニッチフレグランスというジャンルに、初めて興味を持った。その香りを纏って友人たちとディナーへ出かけたところ「何の香水を使っているの?」ととても評判が良く、ニッチフレグランスの世界をもっと知りたい、深く学んでみたいと思った。そして、香りが自分の個性を表現できるものだと知り、新しい世界の扉が開かれた気がした。自分自身も10代や20代の頃とは違う香りをつけたいと思っていた。イタリアでは、香水へ興味や関心があるかどうかというより、みんな当然のように香水をつけている。それまでは若者に特化した香りしか使ってこなかったから、タイミングもベストマッチだったのかもしれない。香りで個性を表現できると刺激となったし、そこから香りへの情熱が生まれた。

YUKIRIN:ブランドとしては、2013年に6月のピッティウオモ(イタリアで開かれた香水の展示会イベント)でお披露目をしたとのことだが、その時に来場したサプライヤーやプレスの反応はどうだった?

ミルコ:その時、ファーストコレクションである「THE BLACK」コレクションを、12種の香りで発表した。どんな反応があるのだろうと思っていたが、いい意味で大きなサプライズの結果となった。すぐに、注目を浴びたんだ。香りそのものはもちろん、ボトルのデザイン性やブランドコンセプト、商品としての価値に興味を持ってもらえて、「ブランドの中に更にブランドがある」、「それぞれの作品が旅に出るスーツケースのようだ」といった良い評価を受けた。そして、実は最初に声をかけてくれたのが、日本人バイヤーでね。かねてより日本文化に強い関心を抱いていて、母国イタリアの次は日本でお披露目したいと考えていたんだ。だから日本でのデビューは2014年と早く、その後徐々にヨーロッパとの関係性が強化されていった。日本はイタリアに次いで世界で2番目に発売された国だよ。

YUKIRIN:香りのインスピレーションは何から生まれることが多い?

ミルコ:書籍や映画からもインスピレーションを受けるが、旅に非常に多くのインスピレーションを受けていると思う。一人でアメリカに旅した時も多くのアイデアが生まれたし、旅先の各国の特徴を商品にも取り込んでいくようなイメージだ。イタリアや日本の思い出や文化を香りで表現した作品がいくつもある。

YUKIRIN:インスピレーションが生まれた後に、どんな行程を経て、香りの完成にたどり着くか?

ミルコ:旅で受けたインスピレーションやアイデアを、調香師へ言葉で表現して伝える。そして調香師がいくつかの香りの提案をしてくれ、サンプルが出来たら試す。調香師とも直接連絡を取りながら、自分の頭の中にある香りになるまで修正をかけていく。一回で「これだ!」と完成に近いこともあるが、基本的には何度も何度も修正して創っている。タイトルやパッケージは基本的に香りを完成させてから決めている。

YUKIRIN:香りが完成した後、タイトルはどのようにして決めているか?

ミルコ:タイトルを決める基準は、コレクションの色、コンセプトを重視し、原料から浮かんでくる名前を決めたり、この香りを通じて伝えたいメッセージを考えて決めている。複雑なものやストラクチャーがしっかりしていることが多いので、そこに関係性のあるタイトルを選ぶことが多い。

YUKIRIN:最初に誕生した香り『No.31 / トレントゥーノ』は、どんな風に生まれたのか。

ミルコ:纏った人の個性を引き出すような香水を作りたい、という想いを込めてコンセプトや香りを創り上げていった。想いのあまりの強さのせいか結果的に香料を60種類以上使って複雑でありながらシンプルにも感じる香りが完成した。当初はボローニャの香料会社のラボで創っていたが、僕が最初に感銘を受けた香水の香りのインスピレーションを再現したいと思い、数年前にリモデルを著名な調香師ベルトラン・ドゥショフール氏に依頼した。よりモダンさと、やわらかさを表現して欲しいと話したよ。彼とは、パリのショールームで出会い、その後彼のオフィスに招かれ、彼とはフィーリングがあったことで連絡先を交換し、ワインを送り合ったり、友人としての付き合いになっていったんだ。

YUKIRIN:調香師はどんな方へお願いすることが多いか?

ミルコ:ベルトラン氏とも非常に多くの香りを創っているが、それぞれ香料会社の特徴を理解しながら、自分の作りたい香りとマッチするところを選ぶ。ホームフレグランスが得意など、香料会社によって特製があるからね。

YUKIRIN:芭蕉の名句「古池や かわず飛び込む 水の音」から静寂を破る水音をイメージした「HAIKU(俳句)」、小津安二郎にちなむ「MU(無)」、東洋思想がモチーフの「KI(氣)」、川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫などが描く女性像を元にし、日本酒を使った「MOXI(モクシー)」など、日本文化をインスピレーションにした作品がいくつかあるが、日本に興味を持ったきっかけは?

ミルコ:香りの世界に入るより随分前から、日本文化に大きな興味があった。日本文化だけでなく、武士道、葉隠れなどの侍精神に感銘をうけていた。日本に行ったことが無い時分から興味を持っていたし、指輪にも日本語を印字していたほど関心があったんだ。ブランドを立ち上げた時のパッケージも、実は日本のようにミニマムなスタイルを表現したいと影響を受けているよ。

YUKIRIN:「THE BLACK」コレクションより、今春発売の新作フレグランス「FUGA」(uの上に山線有り)には、どんな意味が込められているか?

ミルコ:「FUGA」はイタリア語で「逃避」という意味を持っている。また、音楽でも「フーガ」という繰り返しを用いた多声音楽の様式がある。(追いかけるように反復する音楽様式)そして、日本語の「風雅」。みやびやかで趣があることを指す。それらのいくつかの意味を持つのがこの香りだ。実際には、uの字にアクセントのある「FUGA」というイタリア語は存在せず、オリジナルのアクセントとしている。

YUKIRIN:「No.31」、「EAU」に続き、「FUGA」では再びベルトラン・ドゥショフール氏とのタッグとのことだが、どんな香りか?

ミルコ:この香りは、日本をイメージしていて、ユニセックスで上品だ。ベルトランは、日本の原料や香料に詳しい調香師だ。日本人の肌の特徴を良く理解していて、原料をセレクトしている。香りの特徴は今までにないオゾンノート、ピーチや特別なホワイトサンタルを起用していて、「HAIKU」を思い出す香りとも言えると思う。ベースノートは、フルーティーさを強めている。ホワイトサンタルとムスクを入れることによって揮発性を抑え、オールシーズン使える香りにした。ベルトランと一緒に香りの安定性を創り出した。纏った瞬間の香りがそのまま持続するようにしたかったんだ。これまでのコレクションとは特徴が違い、纏った瞬間の香りが劇的な変化をしないまま、緩やかにその人の肌の上で馴染んで、ベースの香りが持続し長く穏やかに続く。アグレッシブ過ぎない香りとなっている。

YUKIRIN:ブランドの中でも、特に柔らかい香りの印象がある。フルーティながら、オゾニックというのがユニークだ。ホワイトサンタルとはどんな香料か?一般的なサンダルウッドの香料とはまた違うのか?

ミルコ:共作している2社の香料会社が占有している原料で、非常に上質で貴重な原料と言える。創りたい香りによって香料会社の持つ特徴があり、それぞれの特徴を踏まえ起用している。例えばA社は、イラン産のサフランやマダガスカル産バニラも独自に栽培しているので、例えば最高級のバニラを使いたいならA社に声をかけるなど、創りたい香りに応じて適した香料会社と話している。基本的には、可能な限り天然香料を起用している。

YUKIRIN:本国イタリアやヨーロッパと、日本での人気の香りに違いはあるか?

ミルコ:まず、世界のどの国でも人気があるのが、「HAIKU / ハイク」と「SABA / サバ」だ。日本では「MU / ム」や「GODS / ゴッズ」、韓国では「KLITO / クリト」や「HAECCEITAS / ハイケイタイス」が人気。イタリアでは、「KIRK / カーク」や「No.31 / トレントゥーノ」、「MU / ム」。中東では、レザーやウードの「OG / オグ」。どの国でも一番は「HAIKU」だが、最近は「No.31」も特に支持されている。

YUKIRIN:イタリア人と日本人を比較すると、香りを使う頻度や量、好む傾向に違いはあるか?

ミルコ:日本人は配慮があるし、湿度などの自然環境もイタリアとは異なるから、纏う量も多くて2~3プッシュという人が多いように思う。その点、イタリア人は自己中心的だから(笑)、香水を朝つけて、出先に持って行って昼つけて、さらに夜つけて、ベッドに入る前もつけて寝る。一日中香りを沢山か使っている。シーツにも香りをつけたいという方が多いね。プッシュの回数も、僕は首と鎖骨、両手首、ひげにも、最低でも5プッシュくらいしていると思う。

YUKIRIN:私は個人的に「GIGOT / ジゴ」という香りが好きだ。ワイルドシダーとガーデニアの大人な落ち着きとプレイフルな雰囲気を兼ね備えていると感じる。ジゴロをイメージしていると知って驚いた。今後創ってみたい香りはあるか?

ミルコ:実は、「GIGOT」の調香師のキャサリン氏に、なぜガーデニアを使用したのか聞いてみたところ、彼女の夫がとてもガーデニアが好きで男性にも合うガーデニアの香水を創って欲しいという希望があった事がきっかけで「GIGOT」にガーデニアを使用したそうだよ。今後は、テーマというよりは、原料にこだわった香りを創ってみたいと思うことがある。従来の原料でなく、新しい革新的な原料を使ってみたい。

YUKIRIN:日本市場について思うことと、今後のブランドの展望は?

ミルコ:MIRKO BUFFINI FIRENZEの独自性のある香りを、日本でも理解してもらえていると思う。ブランドが出来て、最初に声をかけてくれ、興味を持ってくれたのは日本市場だ。初恋は二度と忘れることはないと言うだろう?僕も日本を大切に思っている。ブランドの展望としては、この先何年続いても忘れられないような、アイコンブランドに成長させていきたい。人々の生活の一部、日常に浸透した香水ブランドになっていきたいと思う。世界的に魅力的な日本の文化とも、もっとコラボレーションしていきたいし、何年も愛用されるようなブランドにしたい。具体的には、自分が50歳の誕生日までにフィレンツェに実店舗をオープンさせたいと考えている。今は48歳だから、後2年で実現させたい。そして、2店舗目は日本でオープンを目指したいと思っているよ。これからも、日本のファンの期待に応えていきたいし、楽しみにしていてほしい。

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インタビュー前、阪急メンズ東京にて、自らも店頭に立ち、香りを購入したファンの方たちへサインを行っていたミルコ氏。日本のファン想いな姿勢は、デビュー当時から変わらない。

新作の「FUGA」は、3月20日(春分の日)に日本発売予定。
春を呼ぶ香りになりそうで、発売を楽しみにしたいと思う。

■ミルコ ブッフィーニ フィレンツェ 公式Instagram
https://www.instagram.com/mirkobuffinifirenze_japan/

■ミルコ ブッフィーニ フィレンツェ 公式Twitter
https://twitter.com/MIRKOBUFFINI_JP

Photography by Takahiro Okabe

【執筆者】

美容・香水ジャーナリスト YUKIRIN

日本で唯一の香水ジャーナリストとして、メディアで香りの情報を発信。これまで2,500種類以上の香水や、500ブランド以上の化粧品に触れ、新製品や国内市場の動向を網羅するコンサルタント、ブランド顧問として活動中。香りブランドのプレス発表会登壇や、大手百貨店や商業施設で 「香りのパーソナルカウンセリング」を実施。一般ユーザーに向けても、肌の匂いと香水をコーディネートする提案も行っている。その他、コピーライティング、メディアリレーション、イベント企画、ウェブディレクション、SNSコーディネート、広告用写真提供など、携わる業務の幅は広い。
https://ja.wikipedia.org/wiki/YUKIRIN



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コメント(1件)

  • ミルコ・ブッフィーニ氏へのインタビューとても興味深く拝読しました。
    以前から日本に興味を持ち、日本にちなんだ名前の作品が多いのは嬉しいですね。
    男性にも似合うガーデニアの香りを使ったGIGOTを始め試してみたい香りが多いです。

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    2024/2/20 23:52

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