
私はパンツ
2014/8/5 08:28
私はお嬢さんに嫌われている。根拠もなくそう思っているのではありません。お嬢さんはおしゃれで、黒い子やピンクの子、レースの子たちをひいきにしています。そして私がお嬢さんに使ってもらえたのは、なんと私のパンツ人生のうち、一度もないのです。
私は何かしてしまったのでしょうか。一回も使ってもらえないまま、パンツ人生を終わるのでしょうか。
くすくす……と笑い声が聞こえて、私は身を縮めます。
「あの子、一度もお嬢さんにはかれたことないんだって」
お嬢さんがよく連れ出している、セクシーな子が言います。
「ほら見て、タグがついたまま。もう来てから一ヶ月はたつのにね」
ブラとセットのデザインの子が、私をじろじろ見ます。
私はいたたまれなくなって、小さくなりました。
最近、なんだかお嬢さんの様子が変です。ぼーっと私を見つめて考え込んだり、かと思うと私の隅々をチェックしてみたり。私はされるがままになりつつ、ひそかに期待しています。今日こそ、お嬢さんは私をはいてくれるのではないかと――。
お嬢さんの、綺麗に彩られた爪が、私をつまみあげます。そして、一ヶ月以上着けっぱなしのタグが、切り離されました。私の心臓はこれまでにないほど、どきどきいっています。
なのに。
お嬢さんは、私に足を通すことなく、私を洗面器に入れて手洗いし始めました。
頭の中が疑問符で埋め尽くされます。確かお嬢さんは、下着も洗濯機で洗う方で、手洗いするのはブラジャーのお姉さまたちだけなのに・・・・・・?
お嬢さんの手つきは、うっとりするほど優しくて、私はなぜか泣きそうになりました。
私がまだお店にいた頃、お嬢さんはその柔らかな手で私を持ち上げてくれたのです。あの時は、まさかこんな風になるとは思っていませんでした。黒い子やピンクの子達とも、最初は仲良く話していたのです。一週間、二週間と経つうちに、私は誰からも相手にされなくなりました。
お嬢さんは、私を優しく絞ると、日陰に干しました。
引き出しからも、追放されてしまったのでしょうか。もう一度あそこに、戻ることはあるのでしょうか。
戻りたいのか、戻りたくないのか、私はもうわからなくなっていました。
完全に乾いた後、私はお嬢さんのお気に入りの香水を一吹きされました。そのときにはもう、私は普通に生きることを諦めていました。もう何も考えまい、そうすれば、少なくてもこれ以上傷付くことはないのだから・・・・・・。
次の朝、お嬢さんは緊張した面持ちで、私に足を通しました。私はぼんやりと霞がかった頭でそれを感じ、そして我にかえりました。
お嬢さんが私をはいている!
気付くと、引き出しから黒い子が顔を出していました。なにか叫んでいます。私は耳をそばだてました。
「おめでとう!おめでとう!」
黒い子はそう、繰り返しています。
「今までごめんね!あなたお嬢さんのサムシングブルーに選ばれたのよ!私たちの代わりに、お嬢さんの結婚式、参加してきてね!おめでとう!」
サムシングブルー。私の生地は水色、レースは蒼です。もしかして、私が今までお嬢さんに使ってもらえなかったのは、今日のためだったのでしょうか。
お嬢さんのドレス姿に、会場の皆がほう、とため息を吐きました。今日はお嬢さんの結婚式、白一色のお嬢さんはとても幸福そうに見えます。お嬢さんの身につけているものの私だけが色を持っています。だけどもう私は悲しんだりしません。お嬢さんが幸せになるために私は選ばれたのだから。
「私はサムシングオールド。よろしくね」
「私はサムシングニュー。どうも」
「私はサムシングボロウ。仲良くしてね」
他のサムシングたちが口々に声をかけてくれます。私は深呼吸して、新しい名前を初めて口にします。
「私はサムシングブルー。はじめまして」
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