
「コスメ × ニッポンの技」に迫る第2回は、シャネルの美白シリーズ「ル ブラン」の登場です。日本の研究所が開発した美白有効成分と、日本の可憐な花を閉じ込めたル ブラン。9年もの歳月を費やした、その開発の裏側に迫ります。
匠の逸品 シャネル「ル ブラン クリーム」

(ル ブラン クリーム HL[医薬部外品] 50ml 13,500円)
シャネルが考える「世界基準の美しい肌」
「『透明感』そして『ラディアンス』―――。このふたつの質感を両立した肌こそ、シャネルが考える美しい肌であり、美白製品を通して表現したいことです」と語るのは、シャネル化粧品技術開発研究所 所長の安藤信裕さん。
フランスで誕生し、グローバル ブランドとして展開するシャネルは、世界各国の女性の肌を真摯に見つめ、「世界基準の美しさ」とは何かを追求してきました。

(ル ブランシリーズを開発した、シャネル化粧品技術開発研究所 所長・安藤信裕さん)

(ル ブラン シリーズ。2019年現在、スキンケアは全11品)
日本研究所創立時からの一大プロジェクト


この安藤さんの決意は、9年に及ぶ困難な道のりのスタートでもありました。
機上の時間は約1,200時間! 本国の説得に奔走
医薬部外品として新しい成分の認可を得るには、膨大な時間とコストがかかります。
「成分の開発に約2年、効果と安全性の検証に約2年、そこから膨大なデータを提出して申請するわけですが、正直いって、認可はいつおりるか分からない。当然、社内からは反対の声もありました」(安藤さん)

それでも安藤さんは「この成分は開発すべき!」と、何度もフランス本国やアメリカを行き来して、上層部の説得に奔走します。

製品の開発中、飛行機に乗っていた時間は延べ1,200時間にも及ぶというから驚きです…! 安藤さんを突き動かしていたのは、ある「確信」でした。
外資ブランド初の美白有効成分「TXC」
開発がスタートした当初から、安藤さんは「トラネキサム酸」の働きに注目します。
「トラネキサム酸は、当時抗炎症剤として知られていました。肌内部で発生する微弱な炎症を鎮静する働きがあり、この微弱炎症はメラノサイトに刺激を与える物質でもあった。そこで『美白にも応用できるのでは』と考えました」(安藤さん)

開発チームは研究を重ね、肌にスムーズに浸透し化粧品に配合しやすい「トラネキサム酸セチル塩酸塩」を開発。これこそが、ル ブランに配合されている「TXC」です。
9年の歳月をかけて開発したTXCは、見事、外資系ブランド初(2019年現在、外資ブランドでは未だ唯一)となる、新規美白有効成分の認可を取得します!
全方位にアプローチ。TXCのココがスゴイ!
「TXCが優れている点は、『メラニン生成のあらゆる段階に力を発揮する』こと。紫外線を浴びると、肌内部に『メラニンを作って肌細胞を守れ!』という指令が伝わりますが、この最も初期の指令を、TXCはブロックする働きがあります」(安藤さん)

さらに、メラノサイト内部において、メラニンの生成を促す酵素の働きを抑制し、メラニンが作られるのを防止。そして、メラニンが大きな固まりとして成熟する段階にも働きかけ、黒いシミとして目立つのを防ぐそう。
「メラニン生成の初期段階から最終段階まで、全方位的にアプローチするのがTXCの魅力。微弱炎症を鎮静することで、メラノサイトの緊張状態を和らげ、過剰なメラニンの生成を防ぐ働きも期待できます」(安藤さん)
メラニンは「肌に必要なもの」!?
TXCという成分、そしてTXCを配合したル ブランは、実にシャネルの美意識を体現する存在といえます。美白において、シミのもとである『メラニン』は常に悪者扱いされがちですが…? 安藤さんは「メラニンは肌にとって、本来必要不可欠なもの」と、語ります。

「メラニンは、紫外線から私たちの肌細胞を守る、黒い日傘のようなものです。さらに私たちの肌色を決定づけているのも、メラニンの存在。遺伝的にはメラニンの量は変わりません。だとしたら、私たちが目指すべきは、単に『白さ』を追求するだけではなく、その人にとってのいちばん美しい『透明感』と『ツヤ』を呼び覚ますことです」(安藤さん)

「TXCの働きも同じですね。メラニン生成の行程をストップさせるのではなく『正常化』を促す成分なんです。メラノサイトが暴走して、メラニンが過剰に生成される状態をコントロールすることを目的としています」(安藤さん)
肌が繰り返す自然な営みのなかで、あなた自身の美しさを最大限引き出す――。これこそが、世界各国の女性の肌を見つめ、「透明感」と「ラディアンス」という言葉に集約した、シャネルが考える美しさの本質なのです。
徳島に咲く「南高梅」から生まれた成分
そんな美しい肌を育むために、ル ブランシリーズには、日本の豊かな自然が育んだ、特別な成分が配合されているのをご存じでしょうか?
寒さ厳しい2月、険しい山間の地で花開く可憐な梅の花――。
下の写真は徳島県にあるシャネルのための梅園です。ル ブラン シリーズに配合された「ウメ フラワー エキス」は、すべてこの地で育つ約200本の梅から抽出されています。

(徳島県にあるシャネルの梅園 写真提供:シャネル)
「日本の成分を使いたい」という強い思いがあった安藤さん。ル ブラン シリーズには「宇和島の真珠」が配合されている製品もあります。
「ル ブランの新製品開発にあたり、40種類以上の成分を調査した結果『梅の花』にたどりついたんです」(安藤さん)
梅の花から抽出されたウメ フラワー エキスは、ダメージを受けた肌に働きかける、パワフルな成分。
「肌ダメージを修復するウメ フラワー エキスとTXCを組み合わせることで、肌の色ムラの改善効果が高まることがわかりました」(安藤さん)

(2月〜3月に花開く南高梅 写真提供:シャネル)
雪が残る時期に花開く、たくましい生命力を持ち、春の訪れを知らせる花として「春告草」とも呼ばれる梅の花。その力を得るために、梅園では早朝から手摘みで、ひとつひとつ花を採取していきます。エキスの抽出も全て日本で行い、その後フランスで、製品に配合されるそうです。

(花びらを傷つけないようひとつひとつ丁寧に手摘みする。写真提供:シャネル)
テクスチャーにも、日本独自のこだわりが
ル ブラン クリーム HLを肌に乗せたとき、きっと誰もが感動を覚えるはず。
シルクのようになめらかに広がり、スウッととろけて瞬時に吸い込まれていきます。使用後の肌は、軽やかなうるおいのヴェールで包み込まれているかのよう。この官能的なテクスチャーも、じつは安藤さんのこだわりです。

「じつは世界各国で、感触の好みには差があるんです。たとえばクリームの場合、欧米ではコクのある重い感触が好まれますが、日本ではみずみずしく軽やかな感触に人気がある。日本は『水』に縁のある化粧文化だからでしょう」(安藤さん)
日本は全国的に水資源に恵まれ、水質は軟水で肌あたりもまろやか。欧米に比べて湿度が高いこともあり、みずみずしいテクスチャーに親しみをおぼえるそう。日本女性の化粧水使用率は9割を超えるなど、世界でもまれにみる「水のお手入れが好きな国」でもあります。

安藤さんはこの日本ならではの「みずみずしい感触」をル ブランに取り入れたいと考えました。
「初代ル ブラン クリームは、現行品よりもぷるっとした感触でした。フランス本国では『こんなに軽い感触のクリームなんて』と反対意見が出ましたが、『もう処方は変えません』と押し通したんです(笑)」(安藤さん)

軽やかで、浸透感にすぐれ、肌をしっとり包み込む…。この繊細なテクスチャーの実現までに、何度も何度もテストを繰り返した安藤さん。実際発売されると、欧米の市場も含め高い評価を得ることに…!
「ル ブランのクリームによって、日本以外でも『みずみずしいテクスチャー』のニーズがあることが分かりました」(安藤さん)
日本発の成分、テクスチャーを世界各国で!
世界各国で販売する製品の場合、各国の嗜好に合わせて、テクスチャーだけ変更するケースもあります。しかし、ル ブラン シリーズは、日本で開発した成分やテクスチャーが、海外でも流通しているのです。
今シーズン、ル ブラン クリーム HLとともに登場した『ル ブラン ローションHL』は、日本の「水文化」を象徴するようなアイテム。白濁したまろやかな感触で、肌が飲み干すように浸透し、ふっくらと満たしてくれます。優雅な香りに、肌も心もリラックスできるはず。

(ル ブラン ローション HL 150ml 7,800円)
同じく、ル ブランのスターアイテムである『ル ブラン セラム HLC』も、スウッと吸い込まれるような浸透感が印象的。シリーズのなかでTXCの配合量がもっとも多く、美白のベストセラーとして発売以来不動の人気を誇ります。

(ル ブラン セラム HLC[医薬部外品] 30ml 16,000円)
創業時から世界中の女性たちに、革新的なスタイルを通して新たな美の価値観を提供してきたシャネル。
その卓越した美意識と、日本ならではの美意識、そしてサイエンスと美しい花を融合して生まれた『ル ブラン シリーズ』。日本発の美白アイテムは国境を越え、多くの女性たちに、内側からあふれるような輝きをもたらしてくれるはずです。

取材・文:宇野ナミコ
撮影:出川光
出典:アットコスメ(@cosme)|日本最大のコスメ・美容の総合サイト