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貫井徳郎『私に似た人』

貫井徳郎『私に似た人』

私に似た人/朝日新聞出版



¥1,944
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小規模なテロが頻発するようになった日本。ひとつひとつの事件は単なる無差別殺人のようだが、実行犯たちは一様に、自らの命をなげうって冷たい社会に抵抗する“レジスタント”と称していた。彼らはいわゆる貧困層に属しており、職場や地域に居場所を見つけられないという共通点が見出せるものの、実生活における接点はなく、特定の組織が関与している形跡もなかった。いつしか人々は、犯行の方法が稚拙で計画性もなく、その規模も小さいことから、一連の事件を“小口テロ”と呼びはじめる―。テロに走る者、テロリストを追う者、実行犯を見下す者、テロリストを憎悪する者…彼らの心象と日常のドラマを精巧に描いた、前人未到のエンターテインメント。


貫井徳郎さんの作品は多分初読みです。
図書館の予約が回ってきて、あれ?私この本予約したっけ?と予約した時の記憶が呼び戻せないまま借りてきましたが、結構面白かったです。


貧困層の人々が社会に抗議するための小口テロが多発するようになった近未来の日本を舞台にした連作短編集。


小口テロの被害者の元恋人、小口テロを起こした男、事なかれ主義の日本人を嫌う女、傍観する人、警察官として捜査する人、小口テロを指示した人、夫が小口テロの黒幕なのではないかと疑う妻、小口テロとは別の方法で社会に抗議しようとする男、息子をレジスタントに仕立てた犯人に復讐しようとする男、小口テロで両親を失くした男。


色々な人たちの視点で小口テロや、貧困層のことが描かれています。
日々生きていくだけで精一杯の貧困層の人たちの夢も希望もない日々。
そして小口テロを起こした人たちに接点は全くないかのように思えたところに浮かび上がった「トベ」なる人物の存在。


貧困層をレジスタントに仕立て、小口テロを教唆していたトベ。
しかも「トベ」は一人ではなかった。「トベ」は新たな「トベ」を作り、小口テロを拡散していく。


フィクションですが、完全にフィクションとは言いきれない、ある意味現実に起きてもおかしくないようなリアリティがありました。


実際、この本に出てくる貧困層の人たちのような閉塞感を抱えながら生きている人たちもいると思うんですよね。自分たちが辛い状況なのは社会がわるいんだ、と洗脳されたらテロを起こす人がでてきてしまってもおかしくないのかもしれない。


夫が「トベ」なのではないかと疑う妻の章と、「トベ」なのではないかと疑われていた夫の章では、正直、夫が何をしたかったのか私にはさっぱりでしたが、妻側、夫側の視線で描かれていたのは面白かったです。


最後に唐突に明かされた「トベ」の正体にはびっくりしました。
そもそも「トベ」の犯人捜しみたいな感じは全くないまま話が進んでいっていたのと、途中の章で伏線に気付かなかったというか、ミスリードにまんまと騙されてしまったというか、ともかく全く想像もしていなかった所でいきなり「トベ」の正体が明らかになって、一瞬頭の中が混乱してしまいました。


でもね、「トベ」が絶望した気持ちはわかる。
だけど「トベ」が取った方法は完全に間違ってる。
「トベ」のその復讐を、彼は果たして喜んだだろうか?


「他人の痛みが想像できない人を、私は絶対に認めません」
という言葉はそっくりそのまま「トベ」に返したい。


「トベ」のその復讐こそ、他人の痛みが想像できていないのではないか、と。


短編が進むにつれ、徐々に「小口テロ」の話が広がっていく展開は面白かったし、色々考えさせれることもありましたが、ラストがちょっと肩すかしな感じだったかな。


でもとても読みやすかったので、これを機に貫井徳郎さんの他の作品も読んでみようと思います。


★★★☆

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