それは、今から40年以上前、母の鏡台の引き出しに安い国産化粧水とともに無造作に置かれ、けれどそこだけ異質な光を放っていた。

母はそんな俺の心の内を見透かしたように、やんわりとだが強い口調で、「あれは、高い物だし、こぼれると大変だから触っちゃだめよ」と、昭和時代によくありがちな禁止条例を唐突に発布した。しかし、天然由来のクソガキだった俺は、「うん、わかってる」と即答しつつ、耳には「あれは高い物だから、さわってこぼすと楽しいよ」としか聞こえていないのだった。当時の俺が一番嫌いだった昔話は「つるの恩返し」で、「『絶対見ないでください』と言われたら、絶対見るに決まってる」などと、自分の悪行の数々を心理学的アプローチから正当化するようなイヤなガキだった。この世で子どもの即答ほど信じていけないものはない。
「一体あの白くてカチっとした小箱には、何が入っているのだろう?」そう、そこに注がれた興味と関心はもはや、道端に捨てられた卑猥な本を目ざとく見つけたときの男子のそれと同様、あるいはそれ以上であったことを告白せねばなるまい←いいよ別に
という冗長なイントロの末に、ついに俺は、No5と出会ったのだった。初めてその小箱を開け、中からプラスティックの真っ白な箱を取り出し、その黒いラインで引き締められた箱の中から、透き通った宝石を思わせる小さなボトルを取り出したときの感慨は今もよく覚えている。
「今、俺は、何かとてもイケナイコトをしている。これこそ『禁じられた遊び』だ」頭の中には、そのメランコリックなギターのメロディーが無限ループしていたことは言うまでもない。
親のいないスキに、まるでルパン三世のように、俺は琥珀色の液体が揺れるそのボトルのふたに手をかけた。そして俺は、生まれて初めて香水という物にふれたのだった。
パーンと広がったそのえも言われぬ香り。いったいその香りが何なのか?なぜこんな小さな瓶の黄色い液体が宝物のように扱われるのか?あらゆる疑問が心を揺らした。そして、幼心に夢を見た。
遠く離れたフランスの女の人は、こんな香りがするんだ・・・。
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あれから40年以上がたっている。
そう考えただけで、自分もずいぶん年をとったものだと驚く。
結婚し、子どもに恵まれ、仕事と家事と育児に1日の全ての時間を費やし、夫婦そろってなりふりかまわず動いていた時期がいつの間にか終わり、少しゆったりとした時間が取れるようになった。昔から好きだった香水について、@コスメで見て楽しむようになったのは、そんな時期だ。そして今、老兵とは知りつつも、自分が好きだった香り、今なお探し続けているいい香りについて、冗長なレビューを書くようにもなった。いつまで続くかはわからないけれど。
始まりはNo5だった。いつもこの香りだけは、頭の中で反芻できるほど明確に輪郭を思い描くことができる。好きとか嫌いといったレベルでなく、心に沁みついている香りの1つ、それがNo5だ。今も折に触れてパルファムとトワレの香りをときどきそっと嗅ぐことがある。それは母の物ではなく、妻の鏡台の奥にしまってある物という違いはあれど。
それでも。

過去と未来と現在の自分を映し出す3枚の鏡。そのときどきに出会う香り。永遠の霊薬、No5。
@コスメ「シャネル No5 パルファム」doggyhonzawaクチコミ
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