しみじみとした会話が胸を打つ
2012/5/28 08:15
■ 高瀬舟
■ 小学館文庫 新撰クラシックス
■ 森鴎外
私は森鴎外の高瀬舟を時々思い出したように読む
島送りになった罪人の喜助と、護送する同心の庄兵衛
ふたりが高瀬舟の上でしみじみとした会話をする場面が好きなのである
弟殺しの罪で島に送られる喜助は
これまでの貧しい暮らしと決別できると顔をほころばせ
遠島を申し渡された際に与えられた二百文の鳥目を
ふところにした幸せを同心の庄兵衛にしみじみと話す
喜助の弟は剃刀で自害するのだが死にきれずに
「待っていてくれ、お医者を呼んでくるから」という兄の喜助に
「医者が何になる、ああ苦しい、早く抜いてくれ、頼む」と懇願する
弟はかみそりを抜いてくれたら死なれるだろうから、抜いてくれと言った
喜助は弟の苦しむ姿を目の前にして、
苦しみから救ってやろうと思って剃刀を抜き死なせたのである
『これが果たして弟殺しというものだろうか
人殺しというものだろうか
弟はかみそりを抜いてくれたら死なれるだろうから、抜いてくれと言った
それを抜いてやって死なせたのだ、殺したのだといわれる
早く死にたいといったのは、苦しさに耐えられなかったからである
喜助はその苦を見ているに忍びなかった
苦から救ってやろうと思って命を絶った
それが罪だろうか』
鴎外はこの小説で
『安楽死は罪なのだろうか』
と疑問を投げかけており、それを同心の庄兵衛の感慨として書いている
安楽死については議論があるところだ
苦しむ弟を楽にしてやった、と喜助は自分を納得させていた
はたして、もしもこの場面に立たされた時
私は、そして他の多くの方はどうするだろう・・・
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