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【インタビュー】日本発フレグランスメゾン「EDIT(h)」の現在地を、創業者の葛和建太郎氏へ聞く。

【インタビュー】日本発フレグランスメゾン「EDIT(h)」の現在地を、創業者の葛和建太郎氏へ聞く。

創業110年以上を誇る朱肉メーカー「日光印」を手掛ける、株式会社モリヤマの6代目である葛和建太郎氏が立ち上げた、日本発のフレグランスメゾン「EDIT(h)」。2018年にブランドが誕生して以降、創業のきっかけや1stコレクションに関するインタビューは他メディアでも多く存在するため、今回は私、香水ジャーナリストYUKIRINならではの視点でと思い、2nd コレクション ’La collection Remixes’ を発売した2021年以降について、葛和氏に深堀りインタビューを行った。

2023年10月に開催された「サロン ド パルファン 2023」では、’La collection Remixes’ の中で唯一リミックスが発売されていなかった、1stコレクションの「Rose Mojito(ローズモヒート)」のリミックスである「Cocktail Lane(カクテル レーン)」が先行発売となったばかり。


YUKIRIN:2021年発売の2nd コレクション ’La collection Remixes’ が、誕生したきっかけは?

葛和氏:EDIT(h)は、ブランドの立ち上げ当時より、ヨーロッパの展示会やイベントに積極的に出展を行ってきた。EDIT(h)のヨーロッパ事業のマネージャーのおかげもあって、現地での様々な人脈とのコミュニケーションは増えたが、物理的にヨーロッパへ輸出させてもらえないなどの様々な障害があった。そこで、ふと「香りをリミックスしよう」と思いついた。まずはヨーロッパでEDIT(h)のフレグランスを販売するために、香料自体を国際基準で申請書を揃えられるもので作り、ヨーロッパで生産も出来たらいいんじゃないかと。そこで思いついたのがLa collection Remixesのメソッドです。ヨーロッパのマネージャーにその提案をしたところ、「そんなアイデアは聞いたことが無い。ヨーロッパの香水業界に20年居るが初めてだ、面白い。」と賛同してくれた。

YUKIRIN:’La collection Remixes’ のパフューマー(調香師)たちは、どのようにして決まったのか?

葛和氏:この企画を、一番やりたいと言ってくれる調香師に任せたいと思い、プチコンペを実施した。そこで手を挙げてくれたパフューマーたちが決まった形だ。

YUKIRIN:どのようにリミックスをスタートさせたのか。リミックス前の1stコレクションのフォーミュラを明かしたのか?(原則、フォーミュラをブランド外に明かすことは例外であるため)

葛和氏:パフューマーたちに、1stコレクションの基礎となるフォーミュラと成分データ、各香りのコンセプトを投げかけ、自社が長年作り続けてきた朱肉の香りのフォーミュラも公開した。これは異例なことだと自覚している。リミックスメソッドという新しい香りづくりに対してパフューマーたちがプレゼンしてきてくれ、製品化されたものも含めると数十点に及ぶ試作品が出来た。そこからいくつかピックアップし、さらに香りをブラッシュアップしてもらうよう進めた。

YUKIRIN:1stコレクションのうち、「Jardin Tokyo(ジャルダン トーキョー)」、「Earl Grey(アールグレイ)」、「Reminisce (レミニス)」、「Yuzuki(ユズキ)」の4種がリミックスされた際、なぜ「Rose Mojito(ローズモヒート)」だけが登場しなかったのか。

葛和氏:例えば、「Earl Grey(アールグレイ)」は、「Souchong journey (ス―チョン ジャーニー)」という香りへリミックスしているが、これはドンピシャでスムーズに進行できたパターンだ。4つ登場した試作品から、2つに絞って、それをブラッシュアップさせ完成となった。対して「Rose Mojito(ローズモヒート)」だけは、いつまで経ってもしっくりとこなかった。いくつか候補となった香りを商品化に向けてかなりブラッシュアップしたのだが、作品として納得できるゴールの方向に向かうことが出来なかった。最初はアレクサンドラ・カルランではないパフューマーが担当していたのだが、どうしてもピンと来る香りができ上がらず、一回やめてフラットに戻そうということになったほどだ。

YUKIRIN:現在の「Cocktail Lane(カクテル レーン)」の完成系へはどんな道筋を描いたか?

葛和氏:「Rose Mojito(ローズモヒート)」の香りの魅力は、トップのスパークル感、はじけるようなトップノートから、ミドルノートで大きく展開した香りも使いやすく、ポップだが技ありの調香、世界観が評価されて人気となった。だからこそトップノートにサプライズが絶対に必要だと思った。その後に、展開する形でいくか、シンプルで世界観が変わらないバージョンでいくか調整していった。ビターズリキュールにアンゴストゥラという苦味のある南米産のリキュールを3滴垂らしたような、炭酸のような、深みとシュワっとした高級感をイメージしているとアレクサンドラに伝えた。そこから生まれた試作品が、カクテルレーンの原型だ。4段階くらい試作し、現在の完成系を迎えた。他のリミックス作品より1年半弱多く時間がかかったと思う。

YUKIRIN:アレクサンドラ・カルランは、現在人気の若手パフューマーだが、彼女に依頼した理由は?

葛和氏:アレクサンドラは、BDK ParfumやDiptyque、メゾン マルジェラ フレグランス レプリカ などのブランドでもクリエーションを行っていて、実はEDIT(h)でも先にリリースされた2ndコレクションで「Jardin des mots(ジャルダン デ モウ)」を担当してもらっている。ずっしりとした作品も他ブランドでは作っている彼女だが、エディットでは、ロングラスティングながら綺麗なバランスでの調香をし、重くないのに一癖フックのある香りを創ってくれている。1stコレクションはヨーロッパにリスペクトをしつつ、逆張りの意味の調香を意図したが、今作「Cocktail Lane(カクテル レーン)」はフォーミュラを開示してリミックスを作ってもらうというテーマにおいても、オリジナルのフィーリングを守っているのが凄いところだ。しかも、ベースはヨーロッパのフレグランスと違い、日本のフレグランスであり、既存の作品のようにゼロベースではなくリミックスにも関わらず完成度とクリエイティビティが高いのが素晴らしいと思う。

YUKRIN:2nd コレクション ’La collection Remixes’ で、「Earl Grey(アールグレイ)」の同じ路線上にリミックスの「Souchong journey (ス―チョン ジャーニー)」が居ると感じたが、逆に「Yuzuki(ユズキ)」は「Green Velvet(グリーン ベルベット)」へリミックスされた時に、それこそテンポやメインボーカルごと代わったような印象を受けた。コレクションの中で、そのような差が生まれた理由は?

葛和氏:偶然にも、’La collection Remixes’ で最初に発売した4つの香りは、2パターンづつに分かれたと言える。「Earl Grey(アールグレイ)」からリミックスされた「Souchong journey (ス―チョン ジャーニー)」、「Jardin Tokyo(ジャルダン トーキョー)」からリミックスされた「Jardin des mots(ジャルダン デ モウ)」は、オリジナルに忠実に仕上がったと思う。世界観は似ていて別作品となったような感じだ。逆に、「Yuzuki(ユズキ)」から「Green Velvet(グリーン ベルベット)」、「Reminisce (レミニス)」から「Kagamigoshi(カガミゴシ)」へのリミックスはオリジナルと全然違う。これはパフューマーからの提案だった。「Green Velvet(グリーン ベルベット)」は、パフューマーを務めたレスリー・ゴティエが「Yuzuki(ユズキ)」のトップノートにある苦味を、ピーマンの香りで表現しようと提案してくれた。「Reminisce (レミニス)」は、香りの構成のバランスは同じだが、鏡のように全く左右別になったようなフォーミュラの香りとなっている。

YUKIRIN:2023年3月、イタリア・ミラノで開催された二ッチフレグランス最大規模の展示会「Esxcence2023」で、「Cocktail Lane(カクテル レーン)」を初お披露目して評判はどうだったか?

葛和氏:Fragranticaの編集長が初めて参加した2022年来のエディットファンで、カクテルレーンも大変気に入ってくれ、記事にもしてくれた。昨年出展した時は「Kagamigoshi(カガミゴシ)」が特に人気だったが、今年の「Cocktail Lane(カクテル レーン)」も大好評だった。香水のライトユーザーにとってもシンプルにいい香りだと思ってもらえるし、香水に詳しい人にとっては、調香の技術やバランスが良くできていることが分かってもらえる香りだと思う。今後のエディットの看板の香りの1つとなると思う。ちなみにこれまで、フランスでは「Jardin des mots(ジャルダン デ モウ)」と「Green Velvet(グリーン ベルベット)」が人気で、欧米は甘くインパクトのある香りが好きな傾向にあり「Kagamigoshi(カガミゴシ)」が人気だ。「Souchong journey (ス―チョン ジャーニー)」は中国・台湾の方に好まれる。アジア人は、分かりやすいフローラルノートや、甘くきれいな香りを好む傾向があるように感じる。

YUKIRIN:EDIT(h)は、複数のパフューマーがそれぞれ調香を担当するスタイルだと思うが、EDIT(h)らしさはどう判断しているのか?

葛和氏:香りの最終決定は自分自身が行うからこそ、ここをもう少し足して、無くしてといった調整を行ってもらうと、最終的にはEDIT(h)らしくなる。必ず、俯瞰で見るようにしている。香りだけではなく、音楽を中心に現代カルチャーの経験値もあるし、自分の感覚を信じればきっと大丈夫、自分のセンスに従っていけば、質の高いものになると信じて決定している。

YUKIRIN:世界に挑戦するジャパニーズフレグランスメゾンとして、自分自身のセンスへの絶対的信頼を持たれることはとても重要であると私自身も思うし、なかなか自分に自信を持てないタイプや、自信過剰になってしまうタイプもある中、葛和さんは確かに「俯瞰で見る」と言う言葉がしっくりくる冷静さも兼ね備えているように感じている。EDIT(h)としてのこだわりはどんなところだと思うか?また、日本の香水市場ではどんな存在として捉えられていると思うか?

葛和氏:どんな存在かはユーザーが決めることではあるが、常に本物であることにはこだわっている。香水という形を作ることは簡単で、ビジネスフローも様々存在する。香水瓶ひとつとっても、既存のものに少しアレンジを加えてオリジナルのように見せることはいくらでもできるだろう。しかしながら、本物のブランドとは何だろうと考えた時、オリジナティやストーリーをきちんと表現し、評価されているものがそれだと思った。EDIT(h)は海外への挑戦も長く、二年連続で参加したエクセンス(香水の展示会)で海外バイヤーたちと話していると、気づくことがある。それは、ずっと出展しているブランドはあまり変わり映えがせず、新興ブランドは3年程居るといなくなってしまうということだ。バイヤーたちは常に新しいブランドを探しているが、毎年どんどんブランドは増え続け、その中から「本物」を探している。企画品でも、ディスカバリーセットひとつとっても、EDIT(h)ならこういうものにしたいというオリジナリティを大切にしている。これはEDIT(h)でないと作る理由がないと思うものをクリエイションしている、コーディネーションではなく、クリエーション。音楽ディレクターでもあったので、やはりブランドディレクターやクリエイティブディレクターという立ち位置がしっくりくる。

YUKIRIN:2018年のブランド創業前からの海外挑戦で長かったが、ようやく実りつつありますね?

葛和氏:パンデミックを機に見つめなおし、フレグランスブランドとして香水できちんと評価されようと仕切り直すことにした。2018年に出展した展示会「メゾン エ オブジェ」でも高い評価はいただいたが、香水だけでないインテリアなど広範囲なジャンルでの来場者が多く、あえて一流の香水の展示会でありセレクションに合格しないと出展できない「Esxcence」への出展に変更した。市場販売にも手応えを感じたし、ヨーロッパに香水ブランドとして流通したいと思っている。現在ドイツでの取り扱いが始まり、今後はイタリア他数カ国でも販売が始まる予定だ。現在は、香水の目利きが厳選したようなショップや、香水セレクトに評価のあるショップのみを選ぶようにしているが、今後は拡大していければと考えている。

YUKIRIN:伊勢丹新宿店の1Fフレグランスコーナーにも常設になったきっかけは?

葛和氏:常設を目標にサロン ド パルファンにも注力してきたので、声をかけていただけて大変光栄だ。伊勢丹新宿店という、日本のハイフレグランスのトップエリアにいるブランドだという意味でも守りたい場所だ。

YUKIRIN:来年以降はどんな展開を考えているか?

葛和氏:次の新作の香りは創り始めているが、最終的に完成するまで発売するつもりはなく、自分が納得がいくところまで追求するのは変わらない。また、リミックスプロジェクトは普遍であり、オリジナルができたらリミックスを創るという僕が考え出した手法は今後も継続していきたいと思っている。

YUKIRIN:最後に、読者へ一言お願いします。

葛和氏:まずは傑作と言い切れる新作フレグランス「Cocktail Lane(カクテル レーン)」を、ぜひ試香して、肌にのせて楽しんで欲しい。印章文化の技術を使って、ブランドとしてやりたいことを行い、ブランドとしての世界観の面白さが伝わった時にこそ始めようと思っている企画もあるので、今後のEDIT(h)にもぜひ期待して欲しい。

★EDIT(h)公式サイト

https://edithtokyo.com/

★EDIT(h)公式オンラインショップ

https://edith.shop-pro.jp/

★EDIT(h)公式Instagram

https://www.instagram.com/edithfragrances/


【執筆者】

美容・香水ジャーナリスト YUKIRIN

日本で唯一の香水ジャーナリストとして、メディアで香りの情報を発信。またナチュラルオーガニック美容の専門家でもあり、コラム執筆や、記事監修を行う。これまで2,000種類以上の香水や、500ブランド以上の化粧品に触れ、新製品や国内市場の動向を網羅する他、ブランドコンサルティングとして活動中。
https://ja.wikipedia.org/wiki/YUKIRIN

★公式Instagram
毎月第一土曜日の22時からは、フレグランス専門インスタライブを配信中。
https://www.instagram.com/fabgearyukirin3/




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コメント(1件)

  • EDIT(h)はサロンドパルファンに初出店時から個性的なブランドだと思っていました。
    葛和氏のインタビューとても興味深かったです。
    Cocktail Lane(カクテル レーン)、今度伊勢丹に行く際に是非試香してみたいと思います!

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    • 更新する

    2023/11/7 23:08

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    かなりこだわりを持ちながら、労力も時間もコストもきちんとかけて大切に大切に作っているブランドなんだなと改めて感じました。葛和さんご自身は飄々とされていて、その苦労を感じさせないような明るさのある方で、楽しくブランドをやっていらっしゃるのが分かるのが良いですね。カクテルレーン、海外でもとても評価が高いようですので、ぜひ伊勢丹で試してみてください♪

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    2023/11/26 18:05

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