
■ 泥棒と若殿 (人情裏長屋に収録されています)
■ 新潮社
■ 山本周五郎
山本周五郎は庶民の苦しみや悲しみを描きながら
その中に生きる喜びが込められており、善良すぎて出世できないなど
大人のファンタジーとも言える作品が多い
殺伐としたニュースが続く現代だからこそ
こうした物語を読んで自分の中にあるギスギスした気持ちを溶かしてほしい
山本周五郎のじんわりと胸が暖かくなる物語はどれもハズレがない面白さ
その中でも私は
廃屋に幽閉されて困窮していた若殿のところへ盗みに入った泥棒が
あまりの窮状をみかねて若殿の世話をするという「泥棒と若殿」が特に好きだ
泥棒に入った屋敷が余りにも荒れ果てていて
床板を踏み抜いて『イテテテ!』と呻る泥棒の様子を面白がっている若殿
その若殿はお家騒動で反対派の家臣に幽閉され
世捨て人のようになっていた
しかし、泥棒の親身な世話で次第に心を開いていく
子供の頃から母親と義父にこき使われ、他人に利用され、騙され
苦労を重ねてきた泥棒
その泥棒の一本気な性格が男らしくて大好き
屈折していた若殿の気持ちが徐々にほぐれていって
この奇妙な共同生活を楽しむ様子は、胸にじんわり温かいものが湧いてくる
お家騒動が落着して、若殿は領主として城に戻ることになる
そんな事情を何も知らない泥棒に
若殿は始めて食事を作ってやり、夜中に黙って屋敷を出るのだが・・・
「おめえいっちまうのか、おれを置いて、いっちまうのか」
泥棒の声が何とも切ない・・・
泥棒の献身と切ない別れ
読み終わった時に、優しく暖かい気持ちになれることは保証する
anzu_ameさん
美容ライター、エイジング美容研究家
sachiranさん