冬季限定で毎年異なるデザインのコレクターズボトルで販売される「シャリマー スフルドゥパルファン」です。
スフル 、とはそよ風のこと。そよ風のようなシャリマー 、それがこの香水のイメージです。
しかし率直に感想を言うと、この香りはシャリマー とは全くの別物です。柑橘の香りで始まり、バニラの香りで終結する、という大きな視点で見てみれば、共通点がないとは言えません。しかし、シャリマーを特徴づける香りのうちの数々が欠落し、香りそのものが持つ全体的な世界観がここまで大きく変化していると、別物と言わざるを得ません。
オリジナルの、低音の響くような燻したような樹脂の香り、篭った香りがもれてくるようなあの香りがしません。また、スパイスをほとんど感じません。要となるバニラの香りも、趣が全く異なりますね。
むしろ、オレンジブロッサムとバニラの組み合わせから、ディオールのアディクトEDPに似ている雰囲気を感じます。アディクトの香りをもっときらきらと明るく軽やかにした感じでしょうか、?
とても透明感のある香りです。スプレーした瞬間、とてもウォータリーな香りと、オレンジブロッサムの香りが強く主張します。柑橘の果汁が弾けるような爽やかさとも違う、オリジナルのような渋辛いベルガモットとも違う…オレンジの花の上澄みのような淡い香りです。うっすらと、蜜柑の甘さも香ります。
肌に次第に馴染んでくると、オレンジブロッサムがウォータリーな香りに移ろい、瓜系に特有のアクが主張するように思います。
ラストのバニラはとても軽やか。オリジナルのようにスパイスが効いていない、西洋風のバニラなので、インドっぽさ、お香っぽさはほとんど感じません。このバニラは、お砂糖と油分を控えめにしたバニラ、熟成したというより、若々しいバニラです。
ムスクも加えあるからでしょうか、石鹸のような香りも混じったバニラの香り。ムスクの香りもあって、終始ソーピーな香りです。
軽やかで清潔感のある香りにまとまっている一方、冬につけるにはウォータリーで、やや涼しすぎるように思います。春夏につけるには、軽やかで良いのでしょうが、この季節の限定販売にはそぐわないような気もします。あと、少しツンと鼻にくる高音の響きがあるので、終始静かで柔らかなオリジナルとは、印象がかなり異なります。
ラストのバニラの香り方がとても美しく印象的です。ふわっとそよ風のように、優しく香る。あたたかいけど、軽やかなバニラで、甘さ控えめです。
オリジナルのラストが、バニラビーンズそのものの香りのように濃厚な官能的なバニラなら、こちらは鼻をかすめる風のようなバニラ。このラストの為に、この香水を買っても良いと思ったほどです。比較的ラストまでの香りの変化も早く、ラストの持ちはとても良いです。ラストになってからの香りが、5、6時間持続しますよ。
毎年冬になると限定販売されるこのコレクターズボトルの美しさは、いつも魅了されてしまいます。繊細な筆致で描かれた、楽園のようなタージマハルの原画のようなデザインや、インドのホーリー祭をイメージしたという、色とりどりの青い粉が空中で混じり合うようなデザイン。そして今年は、鳳凰のような鳥が力強く描かれ、滲んだ水墨画のような水彩の濃淡がとても美しいです。
シャリマー香水のボトルは、過不足なく美しいです。ほかに何かを足したり引いたりする必要のない、完璧な均整と完成された美しさ。
けれどEDPのボトルには、やや平べったさ、凡庸さを感じていました。スフルのボトルは、このEDPのシルエットをキャンバスに見立てて、ゲランが持つ香りと芸術の世界観を、惜しげもなく展開しています。
シャネルのボトルデザインの簡潔明朗さには、都会的なセンスを感じます。でも、まるで自然が失われた都会で感じる息苦しさ、手応えのなさのように、どの香りも同じボトルで、なんだか無味乾燥すぎるように感じることもあります。ディオールのミスディオールシリーズには、いつも持ち歩きたくなるような愛らしさ。ジャドールシリーズには、女性の曲線美を象徴したような色っぽさがありますが、なにか香りの持つ印象がボトルのインパクトに負けてしまっているように思えてなりません。
やはりゲランのシャリマーのデザインの美しさとその香りの持つイメージとのバランスは、抜きん出ているように思います。こっくりとしたカラメル色の香水や、瓶の優雅なシルエットや、蓋の色使いからも、香りを感じるような…独自の世界観を色彩豊かに展開していて、強く惹きつけられます。

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