
知られざる日本のBEAUTYを再発見!@cosme NIPPON PROJECTでは、日本ならではの美容文化や美容素材、美容技術を発掘し配信していきます。
日本には、その土地ならではの「美容素材」や世界に誇る「美容技術」から生まれるコスメがたくさんあります。例えば「カミツレ(カモミール)」もそのひとつ。本連載では、そんな「日本のコスメ」を支える素材や技術を紐解き、知っているようで知らなかった日本コスメの魅力をお伝えします。


飲んでよし、肌に塗ってよし、古代から長く愛されてきたカミツレの持つ力とは、果たしてどんなものなのでしょうか?オーガニックのカミツレエキスを使った化粧品を開発している、資生堂研究員の中根俊彦さん、福島秀和さんにお話を伺いました。
生産者の顔が見える素材にこだわって出逢った「オーガニック カミツレ」
資生堂とカミツレの出逢いは、1999年までさかのぼります。当時、2000年3月に発売する自然派スキンケアブランドの成分として、有機栽培されたハーブのエキスの導入が検討されていました。そのころ日本国内には有機栽培に関する認証制度はなく、2000年から導入が開始された有機JASによる認証制度も食品のみに適用され、化粧品原料に関しては現在も明確な基準は設けられていません。そのため、“オーガニック”を謳う商品として、農林水産省が定めるガイドラインに記されている「有機農産物」の定義に適合することを目指し、中根さんをはじめ当時の開発グループは原料探しに奔走していたといいます。
「当時はオーガニックという概念すら日本には広まっておらず、私たちも化粧品原料として確保していませんでした。今でこそ海外にはオーガニック認定されている化粧品原料はたくさんありますが、私たちは『日本の素材、生産者の顔が見える素材』にこだわりたかったんです。そこで、ある植物エキスメーカーに相談したところ、私たちの求めているハーブを有機栽培している方を見つけてくれました。そのハーブというのが、カミツレだったのです」(中根さん)

オーガニックカミツレの栽培者は、京都府南丹市美山町で料理旅館「きぐすりや」を営むかたわら、ハーブを栽培している神田(こうだ)さんご夫婦。山深い美山町にある広大な畑で、カミツレをはじめさまざまなハーブを栽培しています。有機栽培・無農薬にこだわり、雑草も手摘みするという丹念な仕事ぶりに惹かれ、中根さんたちはここで育てられたカミツレを使うことに決めたと言います。
カミツレの成分が凝縮されているのは、先端の花の部分。毎年5〜6月ごろに満開の時期を迎え、その間に花の部分だけを採取します。時期を過ぎると草は枯れ、種を落とし、また来年花を咲かせるのです。
「カミツレは高温多湿に注意し、雑草さえ抜いておけば育てるのはさほど難しい植物ではないと言われています。しかし化粧品原料として毎年大量に採取するため、農薬や化学肥料を使わず安定的に収穫できているのは、農家さんの努力があってこそ。除草剤は使えないので雑草は全部手で抜く、農薬は使えないので正常に育つ環境を整える、非常に手間がかかることです。たとえば国産の有機野菜などが比較的高額になるのと同じく、それだけの価値がある、それぐらい手をかけないと作れないものだと思います」(中根さん)
品質に自信を持って提供できるものづくりを

「カミツレは、肌荒れを防ぐ製品に多く使われています。カミツレの古くからの知恵をスキンケアアイテムへ活用し、うるおいのあるすこやかな肌へと導くことが期待されています。もちろん、複数の植物エキスとブレンドしたリラックス感ある香りも魅力です」(福島さん)
カミツレをはじめ、植物エキスはスキンケアアイテムに配合した時、“にごり”や“澱(オリ)”が生じることがあります。にごりや澱(オリ)が生じず原料同士が均一に混ざり合い、使い始めも使い終わりも違いがないものを作る、そこには日本を代表するスキンケアメーカー資生堂のプライドがあります。
「これまで培ってきた技術力を活かし、農家さんの顔が見えるものを、品質に自信を持って提供できるものを作っていきたい。それはモノや数字の話だけではなく、生産者と気持ちを通わせることで初めて成り立つと思います」(福島さん)
産地を訪ねてコミュニケーションを重ね、お互いが信頼関係を築いてきたからこそ、上質なカミツレエキスを使った商品を提供し続けることができる。そんなメーカーと生産者の思いが詰まった商品を手に取り目を閉じれば、初夏の青空の下、可憐な白い花が風にそよぎ、甘い香りがふわりと広がる…満開のカミツレ畑がまぶたの裏に広がりそうです。
【カミツレを使用した代表的な商品】
ベネフィーク
画像提供/資生堂
取材・文/芳賀直美