グタール / マンドラゴール オード パルファム 口コミ

もしもあの人の心をぐっと引き寄せられる方法があるとしたら。それがたとえ禁じ手と言われるものであっても、本当に確実な方法なら。はたしてそれを使うだろうか？

この香りをつけるだけで、そしてあの人とすれ違うだけで、そのたびにあの人の心の中に私が刷りこまれていく。まるでミルフィーユのように薄く滑らかに。けれど確実に何層も何層も折り重なって。次第にあの人は自分を放っておけなくなるだろう。そしていつか。

この世には「媚薬」と呼ばれる薬がある。古来より性的魅力を高めるために考案されてきたミステリアスな魔法の薬。それは動物の一部や植物を特殊な技法で調合して作られ続けてきた。中世においてマンドラゴラ（マンドレイク）には、特に強力な媚薬作用があると言い伝えられていた。

アニック・グタールのマンドラゴールは、そんな「恋なすび」の異名をもつマンドラゴラからインスピレーションを得て、２００５年にカミーユと調香師イザベル・ドワイヤンによってリリースされたオードパルファンだ。発売当時は濃紫のボトルが話題となり、その妖しいネーミングと相まって大きな反響を呼んだ。現在はカラーボトルが全て透明ボトルに統一されて廃止されたものの、今なおディープパープルのボトルを愛してやまないファンは多い。

そんなマンドラゴールの香りはどうかというと。

トップ。鼻の奥に来るややスパイシーな香りと、酸味のある柑橘の香りがふわっと広がる。ペッパー系の香料とアールグレイを思わせるベルガモット、そして冷たいミントの香り。これらがうまくブレンドされて不思議な香り立ちを見せる。わずかにスモーキーな甘さも感じられる。スパイシーな柑橘と、冷たい焦げた甘さ。キン！と高いところで鳴り響いている。

3分ほどすると、徐々にベルガモットとミントが飛び始めて、下から温かみのある甘くスパイシーな香りがじわじわと立ち上ってくる。ペッパーの感じとは異なる清涼感のある甘苦い香り。これは中華料理によく用いられる香辛料、スターアニス（八角）の香りだ。じわりとした温かみを感じさせるのはジンジャー。ショウガそのものの香りよりもずっと柔らかく、けれど包みこむような温もりを感じさせる。このスターアニスのスッとした暗い甘さとジンジャーの香ばしさが、絶妙なコントラストを見せる。花の香料は使っていないのに、バーベナやオレンジの香りのようにも感じられるミドルとなって、大体３〜４時間ほど続く。

ラストは、温みがさらに増して、木の樹脂っぽい香りに変化してくる。香り立ちは弱めで、香料ははっきりしない。日によっても異なるが、４〜６時間で柔らかくフェードアウト。

ときに薬草のようにハーバル、ときに香辛料のようにスパイシー、それでもどこかキリッとしていて、カクテルで言えばジンフィズのような渋みもややある。シーンとしては、オンオフどちらでも使えそうで汎用性は高い部類だと思う。特に体温が低めの女性にはおすすめ。秋から冬にかけて気温が低くなってくる時期にも、似つかわしい香りだ。

マンドレイクという妖しい植物からイメージして作ったわりには、全体に爽やかでホットスパイス系の香り。調香の妙なのか、トップのベルガモットが終わってもスッキリした高音の柑橘が続いているように感じられて興味深い。ミドルは、ジンジャーやアニスを入れたハーブティーにオレンジを浮かべたような香りに感じられるときもある。トップのミント＆ミドルのアニスの冷たさから、ジンジャー＆ウッディの温もりへと温度を上げていく変化が面白い。まるでこの香りを纏った女性に興味をもった男性が、次第に熱を上げていくプロセスのよう。加速する思い。囚われて熱くなる心。

もしもあの人の心が誰かに向いていたとしても。それでもいつか自分に振り向かせる。たとえ禁じ手であっても、一つだけ確実な方法があるとしたら。きっと私は悪魔にでも魂を。

マンドラゴールを身にまとう。あの人とすれ違う。それだけで、あの人は気になって仕方なくなる。そしていつかあの人は選んでくれる。この髪にそっと指を絡め、胸にたぐり寄せるはず。そのとき私は心の中で歓喜の声を上げるだろう。引き抜かれたマンドラゴラのように。

使用した商品

• 現品
• 購入品