リキッドイマジネ / サルトゥース 口コミ

眠れない。何度寝返りをうっても。大きく深呼吸しても。暗闇の中、自分の息遣いだけが聞こえ、目を閉じていても瞳がせわしなく動いて。眠れない。

人は不安や緊張で心が削られたり、嫉妬や怒りに心がとらわれたりすると、睡眠に大きな支障をきたす。ベッドに入っても神経が高ぶったまま眠れなくなる。これは本当につらい。

眠れないとき、人は羊を数えたり玉ねぎを枕元に置いたり、あるいは睡眠サプリなどの力を借りて快適な睡眠を得ようとする。アロマテラピーではよく安眠効果の高いラベンダー精油を用いることも知られている。ただ、もし香りを付けることに抵抗がなければ、寝る前に上質なウッディ系の香水を手首などにつけることも試してみるといい。樹木から出ている香り物質フィトンチッドには、血圧を下げたり脈の乱れを抑制したりするなど、自律神経をリラックスさせる効果が確認されている。さらに人の免疫力を向上させる効果もあるからだ。

夜寝るときに自分の好きな香りを枕にプッシュしたり、身体に付けたりして「寝香水」を楽しむ方は存外多い。なかなか寝付けないときは、リキッドイマジネのサルトゥースの香りを寝香水にしてみてはどうだろう。

サルトゥース・オーデパルファムは、リキッドマジネの中でも、ワイルドな植物や動物の生態系にフィーチャーした三部作「レ ゾウ アルボラント」のうちの１本。サルトゥースの語源はラテン語の「サルタス（森）」だ。その名のごとくサルトゥースには、さまざまな木の香り成分がたっぷり感じられる。

では一体どんな香りかというと。

アンフォラの壺を模したキャップを外してスプレーする。その瞬間、まず感じられるのは香ばしく心地よいヒノキのような香り。透明感があって、今製材したばかりのような針葉樹のスパイシーでクールな木の香がふわっと鼻をくすぐる。まさにフィトンチッド。すぐにユーカリ油のような清涼感が下から上がってきて、鼻腔の奥にスーッとくるメントールのような刺激も感じられてくるトップ。

３分もすると不意にアニマリックなテイストがわずかに顔をのぞかせてきてはっとする。小動物の匂いというか、ムンとくるシベット調の臭みというか。それがほんのわずか混じってくる。清涼感のある針葉樹の香りと相まって、さながら森の息遣いが聞こえてきそうなミドルだ。そのあとは暗い油のような匂いが混じってきて木の香が2段階くらい音程が下がる。そして３０分ほど続いたかと思うと、不意に香りが軽くなってクリーミーな香ばしいウッディのラストを迎える。そこまで1時間ほどだ。持続時間は体温高めの自分でそれくらい。

サルトゥースは最初から最後まで樹木の香りがする。そしてところどころに木の陰からこちらを盗み見しているような小動物っぽい獣の匂いが混じる。木の精油は揮発スピードが異なる物を数種類ブレンドしているようで、清涼感→深く低い木の油の匂い→香ばしさへとスライドしていくイメージ。構成している香料は大体次のとおり。

シダーリーブス、ユーカリ、カンファー、スチラックス、 インドネシアンパチュリ、ソマリアインセンス、ベネゼエラトンカビーン 、レジノイド、 カストリウム＆シベットエッセンス、オーストラリアサンダルウッド

トップから針葉樹全開、シトラスもフローラルもなく、さまざまなウッディがふわふわと入れ替わってフェイドアウトする構成。しかも短時間で消失する。これはなかなか大胆な調香だと思う。

この作品を手掛けた調香師シャマラ・メゾンデューはマレーシア出身の女性だ。長年パリ在住のようだが、幼少の頃はジャングルのような亜熱帯の森が身近にあり、その混沌とした自然の香りにはとても敏感だったという。なるほど目の前で樹木の木肌が露出しているかのような生々しいコンポジションを作れるのはそのおかげか。彼女が自身の香りの記憶から再構成した森に思いをはせる。

森は動いている。樹々は陽の光を自身の葉に受けるため、常にサワサワと枝を揺り動かしている。そんな音が森全体に静かに共鳴している。新緑の森は、葉が黄緑色でまだあまり開いていない。そこで葉と葉の間をすり抜けた陽光がそこかしこで地面まで届き、森を明るく照らし、地表を乾かし始める。

どこかで水の流れる音がする。鳥のさえずりと小動物のカサカサ動く気配がしている。

夜、サルトゥースをつけてまぶたを閉じると、そんな光景が暗いスクリーンに流れていく。それは遠い異国のシャマラの森。いつしか呼吸は深くなり、心の奥がゆっくりと鎮静してゆく。肺の奥まで吸った森の空気が、どこまでも自分をおだやかなグリーンに染めてゆく。

そしていつしか、深い瞑想のような眠りに落ちる。

サルトゥース　人を安息にいざなう森の香りとともに。

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