TOBALI / TWILIGHT ROMANCE 口コミ

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doggyhonzawaさん
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6購入品

2020/5/2 14:29:13

日本人が挙げる「世界三大美女」の一人、小野小町をイメージしたとされる香り。平安時代の六歌仙にして、その出自、容姿ともいまだ謎に包まれており、ミステリアスな美女として古今東西さまざまな逸話が語り伝えられている小野小町。

トバリはこのトワイライトロマンスを2019伊勢丹サロンドパルファムでデビューさせ、それ以後も伊勢丹新宿店限定にしている。50mlで13200円(税込)。まさに伊勢丹新宿シグネイチャーといった作品。ところがこの出来がすこぶるいい。

トバリはトワイライトロマンスを次のように紹介している。

「黄昏に染まる花々が織りなす“雅”の情景」
”雅やかな白檀、薄明かりの中に咲く金木犀と薄紅色の薔薇の美しさ。淡いロマンスのように心揺さぶるジャポニズムフローラルウッディの香り。”

結論から言うと確かにそんな香りだ。プラスティックっぽい固さがあるトップ。そこからクリーミー&フルーティーにラクトン系の甘い香りが広がる展開はキンモクセイ香水の特徴を表していてしっとり美しい。わずかにピンクローズの気配もする。ただそれだけではない。これは、とても切ない悲しみに満ちた孤独な香りだ。

トワイライトロマンスをプッシュする。瞬間、広がるのは甘い杏(あんず)の香り。そこにプラスティックやビニールを思わせるわずかなペトロノートが、キン!とはじくような冷たさで感じられる。甘くてフルーティーなトップに、影を落とすような金属的なスパイシー。この光と影のコントラストが明瞭なトップ。

3分ほどするとキンモクセイの主成分といっていいウンデカラクトンのフルーティーで甘い香りとクリーミーさが感じられるようになってくる。このミドルがすばらしい。先頃トバリの社長である橋本氏が某TV番組で最高のベルガモット香料を求めてイタリアに飛ぶ姿を拝見したが、このトワイライトロマンスに使われているキンモクセイも、もしかしたら中国南部、桂林にある世界的に有名なキンモクセイ天然香料生産の工場を訪れて交渉したのではないかと思ったほど。それほど印象的でまろやかなキンモクセイの香りだ。キリアンのグッドガールゴーンバッドのオスマンサスも軽やかなれど、天然っぽい複雑さと深みではこちらの方が上。

「赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって なぜか無駄に胸が騒いでしまう帰り道」
思わずフジファブリックの歌の一フレーズを口ずさんでしまう切ない夕暮れの香りだ。

この妙なるキンモクセイの香りがメインとなってミドルがずっと続くが、実際にはわずかにパウダリーなイオノンやアップルやピーチっぽいラクトン系も含まれているクリーミーフルーティーな香りだ。そして底の方にトバリ初期作品に多く使われていた酸味のあるウッディ、Hidden Japonism834もほんのわずか感じられる。(スモークフラワーとつけ比べ)

ただ、ラストは思いのほか早く訪れる。甘いキンモクセイフルーティーな香りが1〜2時間で消失し、その後はスッと力の抜けた淡いサンダルウッドと酸味ある乾いたウッディ香で終息。それは夕闇の中、部屋に灯りをともして焚きしめた香木の香り。平安時代、わずかな灯火の下、自分のために幾夜も通い続けてくれる思い人を待つ宵を思わせるラスト。今夜もあの人は来てくれるだろうか?そんな思いが儚い煙のように消えてゆく。全体で3〜4時間程度。

ウォーターリフレクション以降、トバリは新たなステージに入ったように思う。日本香堂とコラボした平安時代の香りを思わせるHidden Japonism834からいったん離れ、より日本らしさと天然香料がもつパワーを追求する方向に進んでいる気がする。トワイライトロマンスはその試金石だろうか。選びに選んだよい香料をメインに配置し、他の香料はそれを支える脇役に徹する。そんな強い思いがこの作品には感じられる。

夕暮れ空。山際を黒く染め、残照の赤が消えかかる頃。遠く近くたなびく霞。空の上方から、藍色の夜のとばりが下り始める。静かに忍び寄る孤独の気配。不意に胸が苦しくなる刹那。西の空にまたたく宵の明星。重ねてしまうあの人の面影。衣に焚きしめた赤黄色の花の香りだけが、夕闇の中、自分の存在を知らしめる印のように漂う。

かぎりなき思ひのままに夜も来む 夢路をさへに人はとがめじ  小野小町

”あなたへのかぎりない思いを抱える私に今日も一人の夜がおとずれ、私もまたこの思いのままにあなたの元へ参りとうございます。夢の旅路なら誰に咎められることもないでしょうから”

夢で逢うことさえ願う孤独と悲哀。人の夢の儚さ。思い人を待つ心にかかる夕月の色。

あの人に逢いたい。狂おしく思い焦がれる夕べにたなびく香り、トワイライトロマンス。

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