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映画「シングルマン」の作中において、最愛のパートナーを喪った主人公の男性がその絶望感から自殺を決意します。そして人生最後の日と決めたその日、図らずも彼は違う目で世界を見詰めることを学ぶこととなります。それは彼に、日常の中のそれまで目に留まらなかった様々なことへの気付きを与えるのです。職場への最後の出勤時に彼は、恐らくそれまで気にも掛けていなかったであろうと思われる“それ”に気付き、深く感じ入るのです。いつも顔を合わせる女性秘書が“アルページュ”を纏っていることを。
かのトム・フォード氏の初監督作ということで非常に話題になったこの映画が、強烈な美意識と完璧主義に基づいていることを読み取るに難くはありません。詩的かつ私的な、美意識の極みともいえる表現を試みたこの映画で、トム・フォード氏が選んだのがこの香水であることはとても示唆的であり、印象的でした。“美意識に恥じない香水”ということなのでしょう。
アルデハイド系の香水の表現の多様性には驚かされます。人格を持つアルデハイド系はいくつもあるのですが、例えばフルールドロカイユ(旧)は清楚で温和で古風な令嬢、カレーシュは折り目正しく品行方正な育ちの良い女性、リヴ・ゴーシュはモダンで辛辣で個人主義的なご婦人、そしてこのアルページュはふくよかで包容力に満ちた母親像を連想させてくれます。
私が昭和生まれで、あの空気をたっぷり吸って育ったことに依るのでしょう、この“昭和的でレトロ”な“古臭い”香りはとても内に馴染むようで、こちらに対して特段の思い出もないのに、訳も分からず懐かしさを感じるのです。ふくよかでいてエレガント。慌てず騒がず落ち着き払っていて、人に緊張感を与えない、何でも来いの包容力に溢れた、頼りがいのある女性、ムーミンママのように(笑)どんと構えたお母さん。そしてそれなのに彼女は、女性であることを全く一切放棄しておらず、紛い物ではない本物のセクシーさを全身から発散している、内から滲み出る凄まじい品性と美意識がある…。
文芸復興でも起こって、このような美意識のある精神性の高い香りがきちんと敬意を以って受け入れられる世の中に立ち戻ってくれないかな…と、実のところ、周囲を見回しながら、とても寂しい思いで密かに願っております。
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