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クチコミ
ヴィンテージのファムを手に入れた。1944年に発表されたフルーティシプレーでエドモン ルドニツカ作。日本でも海外でもファムの口コミにはリフォーミュレーション前と後の両方が入り混じっている。今回口コミするオリジナルには、調べたところクミンは全く入っていないようだ。残念ながら年代はわからないが、アルコールが完全に飛んでいて色もメープルシロップ並みに濃くかなり古いと思う。
1989年のリフォーミュレーションを依頼されたのはオリビエ クレスプ。その当時病床にあったルドニツカが処方を渡すのを拒み、仕方なく自分の鼻を頼りに作ったとか。オリジナルに入っていた香料も使用禁止になって香りが変わってしまった。
トップはゲランのミツコと同じくオークモスとベルガモットの典型的シプレー。ミツコのトップは傷つけないように丁寧に採った新鮮な白桃。ファムは木の上で完熟して枝がその果汁の重さをやっと支えているプラムとイエローピーチ。取りきれなかったものは落下して発酵を始める。ブランデーになりかけた甘い香りが木や下草の香りと混ざって果樹園に立ち込める。少し酸味とグリーンさのあるウッディさはローズウッド。同じシプレーでもミツコは内向的で、ファムは外向的かつ退廃的。
実は柑橘類以外の果物の精油は存在しない。柑橘類は皮をギュッと指で摘んで潰した時に出てくるオイルとも水分ともつかないものが精油の元になる。今ではお馴染みのピーチ、マンゴ、アプリコット、苺、ラズベリーなどの香りは全て科学的に合成されたもの。ウンデカガラクトンを使って白桃の香りを出したミツコは1919年に発売されていて、ファムは最初のフルーツの香りの香水ではないが、このブランデーのように香り立つ豊潤な甘いフルーティさは当時とても斬新だった。
プラムやピーチを砂糖でコトコト煮て、芳しいブランデーと温かみのあるシナモンとグローブを仕上げに加える。それがファムの香り。第二次世界大戦真っ只中、砂糖もスパイスも不足して貴重品だった時代の贅沢。ヨーロッパでは収穫した果物をコンポートやジャムにした後、瓶詰めにして保存して、秋冬の新鮮な果物が手に入らない時期に食べる習慣がある。甘く煮たフルーツはパイ、クリーム添え、肉料理の詰め物、ソースなどにして楽しむ。
今でこそグルマン扱いではないが、ファムが発売された第二次世界大戦のころはグルマンそのもの。物資が不足しているからこそ余計に、庶民が憧れるほど美味しそうな香りだったのではなかろうか。パリ中の地下鉄が豊かさを感じさせるこの香りで充満するほど大人気になったのが理解できる。
ミドルノートではカーネーション、アイリス、ジャスミン、イランイラン、ローズの花束が香る。カーネーションのスパイシーさが一番目立つ。アイリスのせいか、天候によっては白粉っぽく感じることも。息を吹きかけたり汗をかく寸前まで動いて体温が上がると、トップノートよりもさらに洋酒感のある果物の香りが蘇る。
何てロマンチックな香りだろう。花束を持ってきてくれた恋人と食事をした後、フルーツのコンポートを使ったとっておきのデザートを食べながら、時を忘れて語り合う様子が目に浮かぶ。甘いリキュールも嗜みながら。今こうして一緒に笑顔でいられても、自分の大切な人がいつ軍隊に取られて、帰ってこれるかどうかわからないという切ない思いが心の隅にある。二人の大事な時間はファムの香りともにあっという間に過ぎていく。
ラストノートではレザー、ムスク、アンバー、バニラ、オークモスが境界線なく混ざり合い狂おしいほど芳しい香りに。パウダリーでコクがあってしかも上品な色気がある。そして何故かトップノートの一部であるはずのローズウッドがふとした時に香る。魔女が秘密裏にコトコト煮込んだ濃厚な媚薬のようなミステリーさ。これを秋冬の寒い日に暖炉の前でくつろぎながら纏ったらさぞ素敵だろう。
レトロという言葉が相応しく、現代ではどんな場面で付けていいかわからない。だから洋酒好きな私の相手になってもらうことにした。残念ながら弱いので、他人のほろ酔いが自分の致死量なんてことがよくある。ファムをつけてフルーツブランデーに酔った気分になってまどろみながら、1940年代のフランスに想いを馳せるのも悪くない。
トップノート: アプリコット、プラム、ピーチ、シナモン、ベルガモット、レモン、ローズウッド
ミドルノート: ローズマリー、カーネーション、アイリス、ジャスミン、クローブ、イランイラン、ローズ
ラストノート: レザー、アンバー、パチュリ、ムスク、ベンゾイン、バニラ、オークモス
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