アムアージュ（Amouage） / ブロッサム ラブ 口コミ

ベルガモットとヘリオトロープの華やかな始まり。眩い太陽と砂漠の国だけあってオマーンの香水は香り立ちが派手だ。気分が沈んでいる時に纏うだけでパッと明るい気分になる。

ミドルはアーモンドの甘いお酒アマレットと華麗な薔薇、イランイラン、桜。赤、黄色ではなく明らかに桃色の花。それが沢山パッと一瞬にして咲いたような香り。海外ではいかにも桜という評が多いが、日本人にとっての桜のイメージはどこにもない。せいぜいマラスキーノチェリーやサクラリキュール程度の桜感だと思う。同時にイランイランのクリーミーさのせいか高級なバターっぽさがある。あえて言えば春限定の桜クッキーや桜パウンドケーキなどのこっくりした香りだ。

ラストは満開の桜の海を見た後で目を閉じた時の残像を思わせる香り。樹齢100年は経っていそうな桜の大木の枝、立派な太い幹、芳しい樹皮の香りがほのかに漂ってくる。クマリンのせいで桜餅のような香りもする。その中で桜の花の香りもしっかりと分かる。グリーンさや酸味はないが確かに桜だ。砂漠気候のため桜はオマーンで生育できないらしい。これはオマーン人の思い出の中に咲く満開の桜かもしれない。

出身地やバックグラウンドによってひとつの言葉から連想するものは様々だ。外国人が日本のものに憧れてそれを創作活動に使った時、何か違うと思うことはよくある。例えば印象派の画家が描いた日本画のコピーや、着物を着た西洋女性の油絵など。クイーンのフレディマーキュリーが着物を衣装としてあり得ない着方をしたり、タランティーノ監督のキルビルの中に出てくる日本レストランが狂った世界だったり。日本はそんなんじゃないと笑って切り捨てる人もいると思うが、私は彼らなりの解釈をしていて面白いと思う。日本で生まれ育った私とは違った視点が新鮮だ。自分なりに消化して、時間をかけて形にしてくれたと思うとひたすら嬉しい。

実際、桜は日本らしいと外国人にとても人気がある。彫りの深いアラブ女性が大輪の薔薇なら、日本女性は小さく愛らしい桜だ。そんな桜に惚れ込んだ男性の80年以上前の恋物語がある。

19歳の清子は友人と一緒にダンスホールで踊っていた。すると視線を感じる。コーヒーのような艶のある褐色の肌。自分の親くらいの歳だろうか。中東独特の彫りの深い顔立ちの優しい目の男性がじっと見つめている。神戸の税関の職員であった清子でさえ中東の人は滅多に会うことがなくて面食らった。でも男性の誠意を感じた清子はだんだん心を開いていく。

オマーンという遠い国から来た男性はタイムールと名乗った。清子は彼と恋に落ち、結婚したいと両親に紹介すると当然大反対。食い下がる二人に日本で暮らすことを条件に渋々承諾した。準備があるからと彼はオマーンに半年ほど帰国して戻ってきた。二人はめでたく結婚、娘を一人授かる。

そんなある日、何とオマーンの現国王が誕生祝いに訪ねてきた。その時、清子はタイムールの正体を知って愕然とする。

彼はオマーンの元国王だった。元王族の地位を捨ててまで清子と一緒になることを選んだのだ。

彼は日本人の地理学者から遥か彼方の極東の国、日本のことを聞いて興味を持っていた。国王の座を退位した後、憧れだった日本にお忍びで来ていた。

その時はまさか自分が恋に落ちるなんて思っていなかった。イスラム教で既に奥さんは3人子供もたくさんいるし。何不自由のない優雅な生活。でも、いつも心は渇望していた。自分の地位、財産、名誉に惹かれるのでなく、ひとりの人間としての自分を心から愛してくれる女性と巡り合いたいと。一目惚れだった。こんな歳になって....と躊躇う暇もなく声をかけていた。魂に突き動かされて。

ブロッサムラブの桜は日本人の侘び寂びの世界ではない。一目惚れの恋の香りだ。桜吹雪が舞い、エンジェルが何人も蝶々に混ざって飛んで、10年分の春が一気に来たような、薔薇色ならぬ桜色の世界。

そんな幸せな生活は4年ほどで清子の突然の病死によって幕を閉じる。たった23歳で愛する夫、娘、両親、兄弟姉妹を残して先行く清子の心情を思うと心が痛む。

花のいのちは短くて苦しきことのみ多かりき

いや、そうではない。短くても感謝しきれないほど幸せだったのだ。夫、子供だけではなく、この幸せな時間を生きる自分を支えてくれた人が周りに沢山いて。

花のいのちは短くて愛しき人のみ多かりき

嘆くことなかれ。薄桃色の美しく可憐な桜は咲き続ける。海も時も超えてずっと。

心の中で。

トップノート: ベルガモット、ヘリオトロープ
ミドル: 桜、ローズ、 アマレット、イランイラン
ラストノート: アンバー、トンカビーンズ、バニラ、スエード

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