
2002年にデビューしたポール & ジョー ボーテ。ファッションの世界とリンクしながら、独自の世界観で“遊び心のある”アイテムを展開しています。
Chapter3では、ポール & ジョーのコスメの歴史と、クリエイションの裏側に密着!


▲2002年ポール & ジョー ボーテデビュー時のプレスリリース
2002年、待望のコスメデビュー
「ポール & ジョーの創設者でありデザイナーのソフィーは“ファッションとビューティは切り離せない”という考えを持っていました。ファッションのデビューから数年が経過した頃、ベストなタイミングでアルビオン社との出会いがあり、2002年ポール & ジョー ボーテが誕生します」(ポール & ジョー ボーテ PRマネージャー・五百川紗恵子さん)
コスメ好きな方はご存じかもしれませんが、ポール & ジョーのコスメは、アルビオンが製造しています。洗練された使い心地と優れた品質、そして遊び心のあるデザインは、パリのアトリエとアルビオン社の力を結集しているんですね。

▲ポール & ジョー ボーテ PRマネージャー・五百川紗恵子さん
「デビュー時のコンセプトは“狂おしいほど幸福な人生に”。“大人の少女たち”の欲求を満足させることを目指しました。見る目を持っている一方で、ワクワク感やカワイイものにときめくピュアな気持ちも忘れない、そんな大人のチャーミングな女性たちです」(五百川さん)

▲デビュー時のプレスリリースの表紙には“幸せをはこぶ”といわれる白いオウムが
当時はメイクアップといえば、トレンドを提案するブランドが主流だった時代。ポール & ジョーはいち早く“自分らしさ”を表現するブランドとしてデビューを果たします。誕生時にはベースメイク、フェイスカラー、リップスティック、ネイルポリッシュなど、メイクアップアイテムが揃いました。

▲今も色あせない、デビュー時のお洒落でモダンな店頭用リーフレット
コレクションしたくなるお洒落なカード
なかでも、ポール & ジョーらしさを象徴するアイテムが“カラーイマジネーションカード”。
「フェイスカラーパウダーとリップスティックの箱に封入していたもので、それぞれのカラーの色名を思わせるオリジナルのイラストが描かれています」(五百川さん)

▲デビュー時のフェイスカラーパウダーと、封入されたカラーイマジネーションカード
イラストはなんと全60種類! ひとつひとつテイストが違い、カラーのイメージを表現しています。たとえば、“リスのしっぽ”という名前のカラーに添えられているのは、木の実を抱えたかわいらしいリスのイラスト。

実際のリップスティックのカラーはこんな感じ。たしかに“リスのしっぽ”みたいなブラウンですね。カラーの世界観が伝わってきます。

同じように“シャンペン”という名前のカラーには、泡立つシャンパンのイラストが。“ブラックチェリー”という名前のカラーには、さくらんぼの可憐なイラストが添えられています。どのイラストもお洒落で、カードをコレクションしたくなっちゃいそう!
「化粧品としての機能性はもちろんですが、ご褒美みたいなカードが添えられていたり、外箱もかわいくて思わずとっておきたくなる……。そんな“遊び心”や“ワクワク感”は、デビュー時からずっとポール & ジョーが大切にしている部分です」(五百川さん)
絵本? レコード? 驚きの限定デザイン
現在、ポール & ジョーの遊び心の象徴ともいえるのは、シーズンごとに登場する“限定アイテム”です。「えっ、コレがコスメなの!?」と驚く斬新なデザインや、魅力的なアイテムは、いったいどうやって誕生するのでしょう?

▲ポール & ジョー ボーテ 商品企画担当・中島應さん
「コレクションの開発は、発売の約20ヶ月前からスタートします」と、商品企画担当の中島應さん。すいぶん前から準備しているんですね……! 「最初に検討するのはコレクションのテーマです。たとえば2016年春は“パピヨン ド プランタン”、春の蝶がテーマでした。そこから“蝶のひらひら感”をどう表現するか話し合っていきます」(中島さん)
このとき参考にするのは、雑貨や風景写真など、コスメ以外のありとあらゆるもの。アイディアを持ち寄って、具体的にコスメに落とし込んでいきます。

「ひらひら感の表現として“飛び出す絵本”はどうだろうというアイディアが出て」という中島さんが手にしているのは、当時集めた資料のひとつ。
「この飛び出す絵本をコスメのデザインに落とし込み、ソフィーに意見を求めます。この時は“面白いわ!”とラフの段階で、すぐにOKが出た記憶があります」(中島さん)
細かな部分にも、遊び心と気配りが!
「中味のカラーは、トレンドやコレクションテーマに合わせて考えます。もちろんカラー自体やデザインの細部まで、ソフィーとアイディアを出し合いながら形にしていきます」(中島さん)このときのパッケージには、ポール & ジョーのファッションから、バタフライモチーフを採用。

注目したいのは“ディテールへのこだわり”です。「カラーの上にのせるフィルムの持ち手をよーく見て頂くと、実は“バタフライ”なんです(笑)」(中島さん)

▲2016年発売の限定フェイス & アイカラー
ホントだ! こういう細かな部分に遊び心がきいてる点も、ポール & ジョーならでは。フィルムを持ち上げやすいという“実用面”でも優秀です。
スタッフ全員がクリエイションを楽しんでいる
「ポール & ジョーの製品は、ソフィー自身はもちろん、開発チームや工場などの生産ラインのスタッフまで、全員がクリエイションを楽しんでいる実感があります。過去にない斬新なコスメの開発には、当然苦労も多いのですが……。実現のためにみんな一生懸命知恵を出し合います」と、中島さん。
たとえば2018年の春に挑戦したのは、“レコード型”のコスメ!
「このときのテーマは“エイプリル イン パリ”、文字通り“パリの4月”です。色々調べていくうちに、同名のジャズの名曲が存在することが分かって」(中島さん)

▲当時資料として集めたレコードと、2018年発売の限定フェイス & アイ カラー
「だったら“レコード型のコスメ”なんてどうだろうと。最初は紙とフィルムを買って、どんな形状にするか、手作りであれこれ試しました」(中島さん)
最初に開発者が手作りのサンプルを作成するのは、Chapter1でご紹介したネコリップと同じですね。
店頭でくばる「サンプル」を応用!?
レコードのような“平たい形状”のコスメを作るために、注目したのは“店頭でくばるサンプル”でした!

▲フィルムをペリペリはがすと、中にフェイス&アイカラーが!
「パウダーファンデーションのサンプルにシート形状のものがあって、その技術を応用しています」と、中島さん。サンプルをこんな風にしっかりと製品へとアレンジする柔軟な発想がスゴイ! そしてここでも注目したいのは、ディテールへのこだわりです。
「シートをよく見ると、レコードのようにちゃんと“溝”があるんですね」(中島さん)

▲溝を再現したおかげで、触ると本物のレコードのような感触に
「若い世代の方はレコードの実物を見たことがないかもしれませんが、針を落として音を再生するための“溝”があるんです。触って頂くと分かりますが、この溝を再現しており、ザラザラした感触です」(中島さん)
じつは生産の担当者がレコード世代の男性で、マニアックにこだわってくれたそう。
「“レコードだったら真ん中に穴がないとダメじゃない?”って(笑)。本体の中心に穴は開けられないので、結局印刷で表現することになったのですが……。こんな風に細部にまで、スタッフ全員の情熱とこだわりが凝縮されています」(中島さん)

そして、“レコードジャケット”にあたるパッケージの柄には、もちろんポール & ジョーのコレクション柄を採用!

▲ファッションのコレクション柄を、ジャケットの柄にアレンジ
「このときは最初のデザインから、いくつかソフィーのリクエストで変更になっています。ソフィーもレコード世代なので、クリエイションを楽しんでくれたみたいですね。完成品は、ソフィーこだわりのジャケットセレクションです」(中島さん)
全6種のジャケットのなかには、人気のネコ柄も!

ポール & ジョーはネコモチーフが充実していますが、ファッションの柄のネコにもじつは色々なバリエーションがあるんですね。
ポール & ジョーがブレイクしたアイテムは?
今年で誕生16周年を迎えたポール & ジョー ボーテ。ブランドがブレイクするきっかけとなったアイテムはというと……?

「“このアイテムがきっかけでブレイクした”というより、ポール & ジョーは、本当に人から人へとクチコミで少しずつ広がっていったんです」(五百川さん)
代表アイテムであるネコリップ(Chapter1参照)も、ベースアイテム(Chapter5参照)も、最初から爆発的にヒットした、というわけではなく。そのかわいさやクオリティが人づてで伝わっていったのが根強い人気の秘密といいます。そんななか、「お問い合わせが多かったという意味で、最初のブレイクといえるのは、“がま口ポーチ”でしょうか」と、五百川さん。

▲2006年発売、ハミングバード柄の限定ポーチ
「この“ハミングバード柄”ポーチは行列ができるほど本当に人気で、次のポーチはいつ出るんですか?とお問い合わせをたくさんいただきました。この製品から“ポール & ジョーって柄がカワイイよね”という風に、次第にブランド独自の世界観の認知度が広まっていったんです」(五百川さん)
現在販売しているポーチのなかで、やっぱりいちばん人気は“ネコ柄”です。

▲コスメティック ポーチ II 4,500円。上に乗っているフェイスカラーは、2005年に限定発売された、初めてのネコ柄アイテム。現在は未発売。
「通称“タイムレスキャット”と呼ばれるネコ柄のポーチが人気です。この後にもペイズリー柄や馬柄など、かわいいポーチが発売されていますが、根強い人気を誇っています」(五百川さん)
ブランド認知のきっかけがポーチとは少々意外な感じですが、ポール & ジョーはもともとファッションブランド。お洒落な“柄”や“モチーフ”に注目が集まったのも、当然のことかもしれません。Chapter4では、そんなポール & ジョーの華麗なファッションの世界と、コスメとファッションのコラボレーションに迫りたいと思います。
取材・文/宇野ナミコ
撮影/広瀬美佳