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香水ジャーナリストYUKIRINが選ぶ【ベストフレグランス大賞2023】発表!!! #ベスコス

香水ジャーナリストYUKIRINが選ぶ【ベストフレグランス大賞2023】発表!!! #ベスコス

香水ジャーナリストのYUKIRINです。今年10年目を迎えました、毎年恒例の「YUKIRINが選ぶ、ベストフレグランス大賞」を、今回も記事化させていただきます。2014年~2022年のベストフレグランス大賞記事は、本記事の一番下にリンクをまとめています。

【YUKIRINの2023年総評】



●日本の香水市場と人気傾向に関して
2022年に比べ、飛躍的に市場拡大という訳ではないものの、2021年⇒2022年、2022年⇒2023年と、それぞれ8%(各年、約40億円ほど)増で市場は広がり、現時点で、コロナ前の市場規模を超えている。フレグランス市場全体はコロナ禍で伸びたジャンルであるものの、純粋に幅広いフレグランスユーザーの増加も大きい。ディスカバリーセット、トライアルセット人気は未だ衰えないものの、昨年よりも香りへの高級感(価格とはイコールではなく)やこだわりを求める傾向が高まり、「他人のために、好感度のために香水を纏う」時代を超えて、「自己表現、アイデンティティとしてフレグランスを纏いたい」という意識が高まっている。特定の香調(フローラル、フルーティーなどの香りの種類)が支持されるというよりも、全ての香調に対して高級感やオリジナリティが求められるようになっている。香料としては、スパイスとウッディが今年多くの海外ブランドフレグランスでフィーチャーされていた印象。

ニッチ&メゾン主体として盛り上がってきた近年も、改めてクラシカルな存在、王道の香り、ファッションフレグランスなどにも再注目が集まり、香りに関するPOP UP、イベント、来日関係者も増えた。成長する日本市場に、日本未上陸の海外の香水ブランドも熱い視線を送っていることは確かである。彼らは、日本のフレグランスファンにどう需要が生まれるのか、どんな感想を持ってもらえるのかに興味を持ち、輸入代理店への売り込みにも熱心だ。とはいえ、日本は輸入代理店の企業数だけでなく、単純にフレグランスを販売する店舗をはじめ、その「売り場面積」が日本は海外に比べ圧倒的に少なく、輸入したとしても展開場所に苦労するパターンも耳にする。大手輸入代理店は百貨店での固定スペースを持ち、その中で展開をやりくりをすることがある程度は可能だが、それでもスペースには限りがある。ブランド数をやみくもに増やすことが、できない事情が見え隠れする。大手が慎重になる一方で、自社店舗の運営を兼ねていたり、少人数で運営する輸入代理店は、細やかに新規ブランドとの取り引きを次々と叶えている印象だ。その結果、ある程度の規模感を持つメゾンの方が日本展開に時間を要する現状がある。コンパクトな輸入代理店がアクティブな反面、コンパクトゆえにどこまでブランドを大切に「継続」できるかの問題もあり、香水愛とブランドへのリスペクトのある代理店かどうかも、大事だと私は感じた。今後はバーチャルショップで展開したりするような、新規参入代理店なども増えていくのではないかと予想している。

●販売店や販売コーナーとユーザーをつなぐ存在の必要性
販売スペースの問題は、今年、伊勢丹新宿店本館 1Fにて、フレグランスの展開ゾーンが拡大された記憶に新しいところだが、東京以外の百貨店各社もフレグランスの展開場所を増やしたり、POPUPを増やしたりと、熱心に取り組み始めている。しかし東京以外は、大都市であってもまだフレグランスファンの絶対数が少なく、地方イベントの充実やユーザー獲得も課題と言える。来年は、売り場の増設やPOP UPがより一層増加すると思われる。個人商店やミニマムプロジェクトでのPOP UPや展示会も増えているが、似たような形態があまりに増えていっては、今後は「またか」という印象を受けかねない。他社(または他者)との差別化、つまり企画力を上げることが命題であり、優秀な企画者をどう確保するかも企業側のポイントとなるだろう。

そんな中、ディレクション側のスタッフの香水知識レベルアップが求められるだけでなく、フレグランスの販売員とユーザーの溝をどれほど埋められるかという問題は昨年からも継続している。コスメの販売経験があっても、フレグランスは別の知識やマナーが必要とされるため難しさもある。結果的に、優秀なフレグランス販売員にファンが集中してしまう店舗もあるかもしれない。しかしその絶対数も多いとは言えず、求人も後を絶たないのが現状だ。各輸入代理店が既に努力されている部分でもあるが、さらに百貨店側や商業施設とも協力体制を取り、フレグランス販売員のベーシックな知識やブランドについての理解、フレグランスを販売するためのマナーについてなど、一層丁寧なバックアップとステップアップの道筋を示し、育成に人材や労力を惜しまない姿勢の強化や継続が必要だろう。

私は今年、伊勢丹新宿店のサロン ド パルファンや、ジェイアール名古屋タカシマヤで、フレグランスのカウンセリングや販売サポートに携わる機会を得たが、実際にお客様と会って話してみると、「香水の知識がきちんとある方に相談しながら買い物をしたい」という希望がとても多いことに気づく。初心者の方は理解できるが、既に何本もフレグランスをお使いになられている方であっても、ということがポイント。その体験を経て私自身も今よりもっと、ブランドや販売店とユーザーをつなぐ存在、コミュニケーターを担う必要性も感じた。

●SNS戦略は人材確保が命
SNSでの情報拡散、情報収集はもはや定番化し、メディアは掲載記事のクオリティの担保をより求められるようになった。様々な発信者が自由に発言できる世の中だからこそ、フレグランス記事に関しても質より量の時代は過ぎゆき、量より質のフェーズへ移行している。プレスリリースに載っていることは一般ユーザーも気軽に見ることができ、より専門的な見識のある記事でないと、むしろ見る価値そのものが疑問視され、その価値はスピード勝負に振り切るしかなくなる。

X(旧Twitter)を中心に、家賃とほぼ変わらないほどの価格帯のフレグランスとして「お家賃香水」や、セミオーダー、フルオーダーなどオーダーメイドによるオリジナリティの共有、スペースなどを活用した香水ファン同士での交流などが顕著にみられた。Xの上手な活用法は、Instagramとは別軸で必須であり、それは製品の売上にまで影響を及ぼすほどと見ている。販売店、代理店、ブランド、それぞれでSNSスキルには差があり、上手に行える人材の確保、外部スタッフとの連携が売上を左右していくだろう。

●ファン心理とPRマーケティング施策のマッチングは必要か
今年、ステルスマーケティング対策としてPR投稿への規制が強まったが、PR投稿やインフルエンサーマーケティングそのものが悪いというよりも、ファン心理を逆なでしてしまう施策が実在するのも事実である。新製品の売上やプロモーション及びマーケティングのKPI達成のために、ブランドや輸入代理店側が良かれと思い組んだことであり、実際に目標を達成すればファンがどう思おうとそこまで関係なかろうという考え方もある。しかし、将来的に見て、ブランドそのものへの期待値の薄れ、裏切られたような気持ちになってしまうファン心理は、ボディブローのように積み重ねっていくもの。売上的成功と引き換えに、このPR施策は本当に正解だったのか、起用者のミスマッチは無かったのか、ファンの声を無視していないか、拒否反応は出ていないのかといった細やかなリサーチにより、悪手が生まれた時であっても上手に修正しコントロールしていく丁寧なマーケティングが必要な時代だと感じている。


それでは、今年の発表に移らせていただきます。

《対象商品》

2023年度に発売されたフレグランス・香り関連商品でYUKIRINが試香した全製品
(ブランドコンセプト賞は今年発売には限定いたしません)

《選定基準》

①ジャーナリストとして客観的に評価し、香水業界の1年を振り返り、作品として素晴らしいかどうか
②コンセプトや香りの名前、ボトルなどの要素が、香りそのものとマッチしていて、かつ魅力的であるか
③ブランドとしてのアプローチに新しさや発展性を感じるかどうか


《2023年受賞作品》



★ベストフレグランス ゴールド賞

セルジュ・ルタンス『エクランドゥフュメ』

(50mL ¥17,710 / 100mL ¥26,950)
https://www.sergelutens.jp/
これまでも独自の視点で描いた個性的なテーマのフレグランスを、数多く創出してきたセルジュ・ルタンス。"コレクションノワール"で今年登場した『エクランドゥフュメ』は、"煙の煌めき"という邦題も秀逸で、ザ・ルタンス節を堪能できる。はじけ飛ぶコルク栓、華やかなパーティー、しかしその煌めく煙の向こうには終わりが待っており、分かっているからこそ全力で燃え尽きるまで走り続ける、まるで華麗なるギャツビーの時代のような視点が、80代に突入したルタンス氏の生々しい声やメッセージとなって感じられた。実は、テーマやストーリー性だけでなく、フレグランスとしても非常にバランスが良く創られている。メインの香料こそ一癖ある「タバコの葉、カカオ、ラム酒」かつ、スモーキーという広く受け入れやれやすい香りではないにも関わらず、どれかが突出して目立ちすぎることのない調和を保っている。セルジュ・ルタンスは、伊勢丹新宿店が開催した香水のイベント「サロン ド パルファン 2023」の本館会場へ今年初出展を果たし、『エクランドゥフュメ』を先行発売したところ、想定以上の売れ行きで嬉しい悲鳴となったそう。各社価格帯が上昇し続けている中、50mLサイズでも1万円台を死守している企業努力も素晴らしく、堂々のゴールド賞受賞となった。

★ベストフレグランス シルバー賞
トム フォード ビューティ『エレクトリック チェリー オード パルファム スプレィ』

(30mL ¥34,100 / 50mL ¥52,250)
https://www.rakuten.ne.jp/gold/tomfordbeauty/
2019年発売の『ロスト チェリー オード パルファム スプレィ』(パフュ―マー:ルイーズ・ターナー)の大ヒットに伴い、今年2つの香りが加った。チェリーの香りは、意外と日本でも支持される傾向にあり、日本らしい「さくらんぼ」ではなく、海外を感じるような「チェリー」であることがポイントだ。大人な仕上がりの雰囲気にアレンジされるチェリーの香りも多い中、『エレクトリック チェリー オード パルファム スプレィ』のポップで明度の高いチェリー、恋の始まりの高まりや早春のニュアンスを感じさせる香りで、ビッグブランドならではの「理解のしやすさ」を兼ね備えている。香りの世界は難しいストーリー性を理解するために追究する楽しさもある反面、世界観やストーリーが難しすぎて理解が追い付かないというニッチブランドも増えているように思う。その中で、創作の意図やプレゼンテーションが、明確に多くの人に伝わるという点も良いと感じた。心地よい苦みを持つモレロチェリーに、ジンジャーとピンクペッパーの爽やかな刺激が躍動感を感じさせ、甘いジャスミン、やわらかなムスクが誘惑的なニュアンスを演出している。2~3プッシュでも香りは残りやすく、価格帯としては強気ながら、意外とコストパフォーマンスも長けている。

★ベストフレグランス賞 ブロンズ賞
ドルセー『あなたの唇で E.Q. ボディフレグランス』

パフューマー:ドミニク・ロピオン
(10mL ¥9,350 / 50mL ¥21,450 / 90mL ¥30,800)
https://dorsay.jp/
様々な愛のシーンや形を香りで表現する現在のドルセーならではの切り口と、無限の愛とキスの余韻をイメージしたという極限のやわらかさに官能性を備えた香り。気づかぬうちに虜になってしまうような、抗えない中毒性を感じる。コンクリートアイリス、ジャスミン、カシュメランをメインコンポジションとし、アイリスはコンクリートとレジノイドが両方起用されている。LMR(ラボラトリーモニークレミー)により抽出された、フランス産アイリス・パリダとアイリス・ゲルマニカのコンクリートとレジノイドで、アイリスパウダーはこの2つのエクストラクトを乾燥させた根茎を粉砕して作られる。根茎から2つの方法でそれぞれ違う香りの成分を抽出することができ、 水蒸気蒸留法ではアイリスコンクリート、抽出法ではアイリス・パリダが抽出可能。ドミニク・ロピオンにより2種のアイリスがアンブレットと共にセンシュアルなパウダリーノートを奏で、完全無欠の世界観を魅せている。ドルセーならではの柔らかさと軽やかさがあり、多めにプッシュして纏っても強すぎることがない。それゆえ、あっという間に減って行ってしまうためブロンズ賞とする。


★ファッショナブル賞
YSL『リブレ ラプソリュ プラチナム』

(50mL ¥22,550)
パフューマー:カルロス・ベナイム、アン・フリッポ
https://www.yslb.jp/
2011年より制作に入り、2019年の発売に至るまで、1570回もの試作が繰り返された「リブレ」の香りは、今年プロモーションの効果もあり、特に販売実数が伸びた香りだろう。リブレは、EDP、EDT、アンタンス、ルパルファムと様々展開されている中、今年数量限定で登場したのが『リブレ ラプソリュ プラチナム』である。クールで謎めいたプラチナカラーとなったリブレのアイコニックなボトルは、デザイナーのスザンヌ・ダルトンにより、プラチナムとシルバーのインナーラッカーが施されたクチュールファッションやジュエリーのような、豪奢な美しさを放つ。フェミニンなオレンジブロッサムと、マスキュランなラベンダーが二大メイン香料が特徴のリブレに、オリジナルな新しいアコードとして、貴重なホワイトラベンダーアコードを使用。リブレ史上最も高い濃度で、絶対的な強さを表現しており、ポリゴナムと呼ばれるタデ科の植物で、ヒメツルソバとも呼ばれる芳香植物から抽出された香りがベルガモットやマンダリンと組み合わせられ、そこにヘリオトロープやバニラ、クマリンのブレンドがパウダリックな甘さで包み込んでいる。ファッショナブルかつ、現代に必要なしなやかな強さも感じさせてくれた。


★フレグランスストーリー賞
ラルチザン パフューム『ア フルール ド ペッシュ オードパルファム』

(100mL ¥26,180)
https://latelierdesparfums.jp/
果実と共に生まれて歩いてきたと言える、ラルチザン パフュームの歴史に、新たな1ページを加えた香り。創業者のジャン・ラポルト氏は、バナナの香りを作って欲しいと知人に頼まれ、その後ラルチザン パフュームを立ち上げ、1978年に発表した最初のフレグランス「ミュール エ ムスク オードトワレ」は当時センセーショナルを巻き起こし、一躍人気のメゾンに押し上げただけでなく、現代も名香の一つとして挙げられる。その後も、世界で初めてのイチジクの香りである「プルミエ フィグエ オードトワレ」が評価された。ジャン・ラポルト氏は現在はブランドに関わっていないが、フルーツノートをはじめ、20ものパビリオンが立ち並び、香料を抽出する植物とエッセンシャルオイルの世界を紹介する"パフューマー ガーデン"を作り、果樹園も保有していて、ピーチも栽培されているそうだ。創業者の精神を守ったと言える今作は、シプレノートとピーチという意外性のある組み合わせ。シプレノートは、ラルチザン パフュームにはあまりなじみのない香調であり、新しい挑戦と言えるため、古きを重んじながらも未来に向けた挑戦の香りとなったストーリー性に感動した。


★エシカル賞
レルボラリオ『テ&チェドロ パフューム』

(50mL ¥8,690)
https://www.lerbolario.jp/
1978年、イタリア北部の街ローディにて、夫婦が営む小さなハーブ薬局として誕生したレルボラリオは、イタリア国内だけでも170の店舗、約4800の販売店を持ち、世界中の40を超える国々で展開中。植物エキスを研究し、人間だけでなく環境や動物にも優しい処方と製法で、エシカルな製品開発をしている。『テ&チェドロ』は、緑茶とマンダリンの組み合わせに、すっきりとしたバーベナやローズ、ゼラニウム、タジェットのハーバルな香りが加わっており、ナチュラル処方ながら単一な印象が無く、フレグランスとして構成されている点が秀逸。お茶をテーマにした、ティーフレグランスは日本でも長い間ベーシックに支持され続けているが、レルボラリオでは本作の緑茶以外に、烏龍茶や白茶を含んだ香りも展開している。


★コストパフォーマンス賞
SHIRO『BE LIKE YOU オードパルファン』

(50mL ¥11,203)
https://shiro-shiro.jp/item/12973.html
SHIROは、これまでも多くのフレグランスを輩出しているブランドで、4000円台のオードパルファンは幅広い層に人気のアイテムである。香水ファンにとっては初心者向けの印象もあり、少しライトに感じてしまうことが多かった。そんな中、2019年に「シロ パフューム」として12種のパフュームラインを発売。日本のみならずフランスやスペイン、アメリカといった各国で活躍するパフューマーを起用し、アルコールを使用せず、徳島県の木頭柚子と北海道のエゾヨモギの蒸留水を使用することで、より香りを際立たせるというSHIROらしいラインである。しかし、初心者やライト層など高価格帯の香水に慣れていない場合に、1万円台のフレグランスは高く感じ、香水ファンから見るとエシカルやコスメティックの部分が目立ってなかなか試すに至らないという部分があったと思う。質もクリエーションも良いのに、今一歩門戸が開かない印象を抱いていた。しかしながら、今年数量限定にて登場した『BE LIKE YOU オードパルファン』は、より香水ファンが「おっ」と思うような、これまでより頭一つ抜けた調香だった。サンダルウッドとカシミアウッドを主役に、アーモンドミルクやムスクを加えた、ウッディアンバーノートである。SHIROならではの清潔感も兼ね備え、50mLで¥11,203は非常に良心的価格で、コストパフォーマンスも良い。数量限定なのが残念だが、来年にまた期待したい。


★ブランドコンセプト賞
La Nuit parfum(ラニュイ パルファン)

https://de-la-nuit.com/fragrance/
香水ブランドを創って運営する人には、どこか一風変わっている人が多い。それは愛想が無いとか、常識に欠けるとかでは全くなく、社会的にはちゃんと適合しながら「やっぱこの人変わってるな」と思わせる、どこかでスイッチオンして上がり倒すようなボルテージと粘着力がある。ラニュイ パルファンは、クラシックピアノ+文学、アート、ファッションetc クラシック音楽から広がるカルチャーとスタイルを発信する日本のブランドである。香水と親和性のある「何か」を融合させることは珍しいことではないが、香水と音楽のコラボレーションをさせた中でも、ラ ニュイ パルファンはクラシックに特化しているのが特徴だ。ラヴェルの『Gaspard de la Nuit(夜のガスパール)』をテーマに3部作で構成されたオードトワレが登場した際にも、その切り口には驚かされたが、今年は『ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番』オードパルファン」で門戸を広く開いた感がある。クラシックに詳しくない人にとっても、音楽を知るきっかけになるような香りだ。これからも独自の道を歩みながら、音楽と香水をテーマとするカルチャーリーダーとしても牽引して欲しい。

ヴェルサティル パリ

https://arteau.jp/collections/versatile-paris
2023年今年日本ローンチ。若手ブランドディレクターのコラリー・フレブール氏により、パンデミックの真っただ中に立ち上げられ、既に全世界20か国以上で展開されているエネルギッシュなブランドである。2019年にパリの香水高等専門学校を卒業したコラリー氏は、ブランドのインターンや香料会社への就職といった道ではなく、自身のブランドを立ち上げ、高濃度のアルコールフリーのロールオンタイプのフレグランスを発売するに至った。やはりこの人も、かなり変わり者ではないかと思っている。一般的にオードパルファンの賦香率は15~20%、エクストレは20%以上だが、ヴェルサティル パリの賦香率は30~38%で、かつ15mLオンリー、1万円を切る価格帯で展開するというインパクトは絶大だ。かつ、それぞれの香りのテーマも非常にユニークかつ、ブレンドも複雑だ。既発の香りもユニークだが、新作「GOD BLESS COLA(ゴッドブレスコーラ)」は特にぶっ飛んでいる。アメリカンフードの本質を捉えて表現された、コーラとポップコーンの香りで、フランス産の天然ポップコーン原料を初めて使用しており、ピーナッツバターやバニラの香りと共に強烈な甘く香ばしい香りを発している。面白いのが、きちんとコーラの香りもすることだ。どこかすっきりとし炭酸のシュワシュワする印象で、ギルティなグルマンノート。これからも展開も楽しみなブランドである。

P.Seven茶香水

https://psevenjp.official.ec/
今年3月に創業者である調香師でもあるPan氏へのインタビューを掲載したが、いよいよ今年知名度がグンとアップした印象がある。台湾の香水ブランドという物珍しさもあるが、実際に香りを体験すれば、いかにオリジナリティに富んだ、ヨーロッパでもアメリカでも無く、アジアの中でも韓国や日本でも無い、ある種マニアックとも言える独特な香りのブランドであることを認識できる。台湾では、お茶を淹れた茶器「聞香杯」の香りを試す文化があり、その香りを残したいという想いから香水として昇華され、ブランドを代表する「キンセン茶香水」が誕生した。今年はフレグランスの百貨店イベントにも積極的に出展し、ユーザーとの直接的な接点も強化した。台湾茶のお茶の残り香を表現するために、あえてラストノートに重い香料を使用しない傾向にあり、そのため、香水のラスティング力に欠ける点があるが、今後その点も改善していけたらと前向きに話されていたのが印象的だった。また、今年の総評の部分でも記したSNSの使い方、特にXの使い方に長けたスタッフがいることも良い点である。一見ネガティブに見える意見にもリアクションし、ご意見をいただいたから善処していけたらという温かいスタンスは、実際に店頭での温かい接客スタイルにも通じている。ブランド側の人間性の素晴らしさが、香りにも、販売にも表れており、ブランド価値を高めているとも思う。


★ルームフレグランス賞
モルトンブラウン『アロマリード サイプレス&シーフェンネル』

(150mL ¥8,800)
https://www.moltonbrown.co.jp/
今年リニューアルされたルームディフューザーである、モルトンブラウンの『アロマリード』の中でも、サイプレス&シーフェンネルの香りは、オーストラリアのシーフェンネルとソルティなサイプレスにアロマティックなベースのカルダモンがブレンドされた、マリンノートとなっている。ベッドルームに飾れば、海辺のラグジュアリーホテルの一室のような雰囲気を演出でき、ダイニングやリビングでも落ち着いた海の香りに癒される。マリンノートながら、意外と季節を選ばず使うことができ、春夏だけでなく、通年を通して使いやすい。お得でサステナブルなリフィルの販売もあり、ボトルごと買い替えなくてもOKな点も良い。

セルジュ・ルタンス『メゾン パフューム ラダムドゥヘイアン / 平安の女官』

(100mL ¥6,930)
https://www.sergelutens.jp/
今年登場したルームフレグランスコレクション『メゾン パフューム 』の中から、一風変わったコンセプトで、日本の家[平安の女官]をイメージした香りが面白い。現代の日本ではなく、あくまで平安時代の日本の家、特に女官が存在するような大きな屋敷や城をイメージしており、低い雲の合間から柔らかく射し込む光や、ふすま、障子、畳などを想起させ、どこまでも静謐な香りに創られている。これを海外のブランド、しかもセルジュ・ルタンスがディレクションしていることも素晴らしく、彼のイマジネーションの豊富さを感じさせてくれた。


★YUKIRINワードローブ賞(10作品):

2023年に発売された香りの中から、個人的に纏う機会の多かった10作品を選出。

EDIT(h)『カクテルレーン』

(50mL ¥19,800)
https://edith.shop-pro.jp/

KOHSHI『キレーサ absinthe fraise オードパルファム』

(50mL ¥18,700)
https://pallumer.com/product-kilesa-absinthe-fraise.html

エルメティカ『ポメロフロウ オーデパルファム』

(50mL ¥19,800 / 100mL ¥29,700)
https://shop.kawabe.co.jp/collections/hermetica

ジョーマローン『ハイランド ヘザー コロン』

(30mL ¥10,890)
https://www.cosme.net/products/10238999/

アクアディパルマ『アクア ディ パルマ シグネチャーズ オブ ザ サン ザッフェラーノ オーデパルファム』

(20mL \17,820)
https://zozo.jp/shop/acquadiparma/goods/75748326/

ELLA K『ムスク K』オードパルファン

(100mL ¥33,000)
https://www.forte-tyo.co.jp/

フレデリック マル『ヘブン キャン ウェイト』オードパルファム

(10mL ¥9,790 / 50mL ¥33,770 /100mL ¥46,530)
https://latelierdesparfums.jp/

モルトンブラウン『ワイルドミント&ラバンジン オードトワレ』

(100mL 15,400)
https://www.moltonbrown.co.jp/

パルファンサトリ『ノビヤカ -Nobiyaka-』

(50mL ¥21,120)
https://parfum-satori.com/

HEELEY『ヒーリー オードパルファン コローニュ オフィシナル』

(100mL ¥24,200)
https://noseshop.jp/


2023年のベストフレグランス大賞は、ここまでとなります。来年も素晴らしい香りに出会えることを願って。

【過去記事にした、ベストフレグランス大賞はこちら】

◆2014年
https://www.cosme.net/beautist/article/2141431

◆2015年
https://www.cosme.net/beautist/article/2033722

◆2016年
https://www.cosme.net/beautist/article/2105216

◆2017年
https://www.cosme.net/beautist/article/2175719

◆2018年
https://www.cosme.net/beautist/article/2248286

◆2019年
https://www.cosme.net/beautist/article/2397146

◆2020年
https://www.cosme.net/beautist/article/2577597

◆2021年
https://www.cosme.net/beautist/article/2615534

◆2022年
https://www.cosme.net/beautist/article/2653175

※香水市場規に関して:富士経済調べ


【執筆者】

美容・香水ジャーナリスト YUKIRIN

日本で唯一の香水ジャーナリストとして、メディアで香りの情報を発信。2003年より10年間美容インフルエンサーを経て、2013年にプロへ転向、今年10年目を迎えた。これまで2,000種類以上の香水や、500ブランド以上の化粧品に触れ、新製品や国内市場の動向を網羅するブランドコンサルティング、顧問として活動中。香りの良いコスメでの美容や、香りとメイクのコーディネートなど、美容?香りの提案も多数行い、多くのビューティ&ファッションメディアでの連載や、香水に関する記事監修に携わる。また、近年は大手百貨店や商業施設で「香りのパーソナルカウンセリング」を実施。一般ユーザーに向けて、肌の匂いと香水をコーディネートする提案も行っている。その他、コピーライティング、メディアリレーション、イベント考案、ウェブディレクション、SNSコーディネート、広告用写真提供など、携わる業務の幅は広い。
https://ja.wikipedia.org/wiki/YUKIRIN

★公式Instagram
毎月、フレグランス専門インスタライブを配信中。
https://www.instagram.com/fabgearyukirin3/


★公式X(旧Twitter)
フレグランスに関する情報や見解を中心に発信しています。
https://twitter.com/yukitty137/


★公式ウェブページ
お仕事のご依頼や、メディア及び関係者様からの問い合わせは、公式ページより問い合わせフォームからご連絡下さい。
http://www.fab-gear-yukirin.com/



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コメント(1件)

  • ルタンスのエクランドゥフュメはサロン・ド・パルファンで試香してとても魅了されたので納得のゴールド賞受賞でした。
    P.Seven茶香水、こちらの他に老茶の香りもあって個人的にお茶の香りが好きなので今後も注目したいブランドです。
    カクテルレーンはEDIT(h)の中で一番好きな香りかもしれません。
    アクアディパルマのザッフェラーノは先日試香して、ウッディーノートにスパイスが効いた香りでとても惹かれました!
    他にもSHIROのBE LIKE YOU、La Nuit parfum、ジョーマローンのハイランド ヘザー コロン・・・気になる香りを挙げられていて個人的に嬉しかったです。
    とても読み応えのある内容でした、ありがとうございます!

    0/500

    • 更新する

    2023/12/14 18:25

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